閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

西埠頭

  • 出演:

重盛次郎 遠藤良子 工藤牧 河内哲二郎
横田桂子 桐谷夏子 福地一義 Soxie Topacio

  • スタッフ:

【作】ベルナール=マリ・コルテス
【演出・美術】佐藤信
【翻訳・監修】佐伯隆幸
【照明】齋藤茂男
【音響】島猛
【映像】吉本直聞
【舞台監督】北村雅則
【衣装】今村あずさ
【演出助手】坂口瑞穂 南俊一
【宣伝美術】タグチケイコ
【写真】青木司
【制作】宗重博之 斎藤俊明
【芸術監督】桐谷夏子

  • 劇場:神楽坂 theatre iwato
  • 評価:☆☆☆★

早口の一本調子で吐き出される台詞の巨大なボリュームに圧倒される.人間の生活の残骸がうち捨てられているかのような荒涼たる空間,西埠頭で交わされるこれらの言葉は,その殺伐とした響きと暴力性ゆえに詩情に満ちている.物語的なのではなく,優れて詩的な演劇作品なのだ.
一年前に見た黒テントによる同じ作家の作品,『ロベルト・ズッコ』での若い役者の台詞のやりとりが,見ているこちらが頭を抱えたくなるほど稚拙で気恥ずかしいものだったことを思えば,今回の公演での発話スタイルや演技はかなりこなれたものになっている.
にもかかわらず台詞の言葉が,日本語の芝居の言葉になりきっていないような感じが強い.台詞の日本語自体はそれなりにこなれているように思えるのだが,台詞を発する役者の身体からは浮き上がっていて様になっていないのだ.言葉が劇言語としては未消化なまま,空虚に漂っている感じ.
翻訳劇の鑑賞とはそもそも外国語とその世界と日本語とわれわれのあいだのちぐはぐとした齟齬に慣れ親しむ過程があり,この齟齬を受け入れた上で,われわれにない世界を味わう作業なのかもしれないが,ベルナール=マリ・コルテスのようなタイプの詩的なテクストでは,「翻訳」よりももっと思い切った「翻案」という形で味わってみたい気がする(そうでなければフランス人の役者によるフランス語の上演でということになるが).
難解で観客にも我慢を強いるしんどい芝居だが見応えあり.
斎藤晴彦による一人芝居『森の直前の夜』のほうが原作の雰囲気はよく伝わってくるのかも知れない.『森の直前の夜』は五月に観に行く予定である.楽しみだ.