閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

地唄・三婆

有吉佐和子講談社文芸文庫、2002年)
地唄・三婆 有吉佐和子作品集 (講談社文芸文庫)
評価:☆☆☆☆

                                                  • -

なんとなく有吉佐和子。「地唄」(1956)「美っつい庵主さん」(1958)「江口の里」(1959)「三婆」(1961)「孟姜女考」(1961)の著者の比較的初期に書かれた五編の短編を収める。「地唄」は伝統芸能である三味線歌謡の藝の世界に生きる父娘の交流を引き締まった文体で描いた好篇。芥川賞候補になった著者の出世作だが、この小説を発表したとき有吉はまだ25歳である。年齢を考えると伝統芸能の世界という題材およびその文体と構成の成熟ぶりに驚嘆してしまう。田舎の尼寺の牧歌的日常を、そこに夏に滞在した大学生カップルの恋情とからめてかいた爽やかな後味の短編「美っつい庵主さん」、老年の外国人神父の視点から日本のカトリックのいびつさを描き出す「江口の里」、三人の婆の陰惨でありながらどことなくユーモラスな諍いを描く「三婆」、文革直前の中国訪問の印象を、魅力的な民話の様々な解釈を通して率直に語る「孟姜女考」。作者がまだ30前の若い時期に書かれた短編にもかかわらず、その題材の幅の広さにも驚かされる。しかもいずれもが上質の「中間小説」であり、娯楽小説としての完成されている。著者は53歳の若さで亡くなってしまったが、凡人の数倍の密度はあるような彼女の生き様を思うと、短命もうべなるかなという感じもする。この短編集に現れた早熟ぶりに有吉佐和子の凄さをあらためて感じる。

                                                                                • -

ナナオのカラーユニバーサルデザイン対応ワイドモニターが欲しい!