閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

破獄

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)


評価:☆☆☆☆

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初版は岩波書店から1983年。読売文学賞受賞作品。
昭和11,17,19,23と4度に渡って脱獄を成功させた無期役囚、佐久間清太郎の伝記。佐久間清太郎は強盗と過失致死の凶悪犯ではあるが、厳しい監視下にもかかわらず超人的体力と知性、そして看守を動揺させる巧みな心理操作によって4度にわたり脱獄を成功させたとなると、その不適な反逆ぶりはある種の英雄色も帯びてくる。
この人物については北海道道東を数年前に旅行した際に、網走刑務所を観光した際に知って関心を持った。先日、古本屋の3冊100円のワゴンの中で暇つぶし用の文庫本をさがしていたら、この本を見つけて購入したのだ。吉村昭の代表作として小説の題名には記憶があったが、極めて抑制的な淡々とした記述の積み重ねが、逆にこの希代の脱獄犯、佐久間清太郎の内面についての想像力をかき立てる。
戦前、戦時、終戦直後の刑務所の厳しい状況が、佐久間と看守たちの緊張感に満ちた駆け引きの描写の背景として記述されている。刑務所の隔絶された日常の描写から、間接的に時代の心象風景を描き出すその筆力に引き込まれる。
『破獄』は1985年に緒方拳主演でNHKでドラマ化されているようだ。これは機会あれば是非見てみたいものだ。
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=241210