閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ラ・ボエーム

http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000010.html

【作 曲】ジャコモ・プッチーニ
【原 作】アンリ・ミルジェ
【台 本】ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イッリカ
【指 揮】マウリツィオ・バルバチーニ
【演 出】粟國淳
【美 術】パスクアーレ・グロッシ
【衣 裳】アレッサンドロ・チャンマルーギ
【照 明】笠原俊幸
【チーフ音楽スタッフ】石坂宏
【舞台監督】大仁田雅彦
【芸術監督】若杉弘

キャスト
【ミミ】マリア・バーヨ
【ロドルフォ】佐野成宏
【マルチェッロ】ドメニコ・バルザーニ*
【ムゼッタ】塩田美奈子
【ショナール】宮本益光
【コッリーネ】妻屋秀和
【べノア】鹿野由之
【アルチンドロ】初鹿野剛
【パルピニョール】倉石真

【合唱指揮】三澤 洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】TOKYO FM少年合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

  • 劇場:初台 新国立劇場 オペラパレス
  • 上演時間:約二時間五十分(休憩二十分)
  • 満足度:☆☆☆☆★

これまで新国立劇場で観たオペラ作品の中では最も楽しむことができた作品だった。『ラ・ボエーム』はプッチーニの作品の中でも上演機会が多い名作であるが舞台で僕が見たのはこれが初めてだった。
一九世紀半ばのパリの屋根裏部屋で共同生活を送る若く貧しい芸術家たちの青春の喜びと切なさが、とろけるような滑らかで美しい旋律でもって描き出される。詩人のロドルフォとお針子ミミの甘く、ささやかで、悲しい恋に、ロドルフォの友人である画家のマルチェロとムゼッタの陽性でユーモラスな幸福感に満ちた恋が対比させられる。この二組の対照的な恋人たちの恋の過程が物語を紡ぐ糸となる。
四場構成で一場と四場が屋根裏の住居、二場がパリのカフェ、三場が郊外の寂しい雪景色の中で展開する。いずれも夜の時間だが、各場のはっきりした対照が音楽や展開だけでなく、美術によっても明確に示される。赤が基調の二場の夜のパリの町の喧騒の表現、青が基調の三場の冬景色は、それぞれ恋の進展と破局の場なのだが、それが基調となる色彩でも示される。一場は出会い、そして四場は束の間の再会と和解のあとの永遠の別れの場となる。いずれの場も印象派や後期印象派の絵画(二場のカフェの場などは、ゴッホの『夜のカフェ』を想起した)を思い起こさせる叙情的な美術も素晴らしかった。ドラマの動きを繊細に伝える照明の多彩な変化も印象的だった。
定型中の定型ともいえるドラマであるが、音楽、演出、美術のみごとなアンサンブルにより、そのファンタジーにたっぷり酔いしれることのできる心地よい舞台だった。