閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ローカル・ミュージック 音楽の現地へ

ローカル・ミュージック―音楽の現地へ

ローカル・ミュージック―音楽の現地へ


評価:☆☆☆☆

                                                                          • -

「ローカル・ミュージック」とは聞きなれない用語だが、著者による造語らしい。この著作で扱われている音楽を見る限り、それはいわゆる「ワールド・ミュージック」と重なる部分がある。しかし「ローカル・ミュージック」ということばで著者が示したいのは、ある種の音楽ジャンルではなくて、ある種の音楽の捉え方の問題だ。現地性を持つ音楽、その音楽が生成し、受容される「場」の束縛、さまざまな関係性の中で成立するポピュラー音楽がこの著作では問題になっている。著者はこれらの音楽がその背景に持つコンテクストを丁寧に、そして華麗な修辞を用いて浮かび上がらせる。時に過剰にペダンティックに感じられることもある筆致ではあるが、そのクールで理知的なことばの根底には、音楽を文字通り肌で捉えようと切望する著者の感情を感じ取ることができるようだった。フランスのパリを中心に、筆者は音楽の「現地性」を求める旅を続ける。この旅にはどこか孤独な感傷が感じられる。それはさまざまな音楽のルーツの探求に彷徨する筆者自身、日本人のわれわれの文化的空洞性ゆえであるように思える。筆者はその現地性の音楽への愛と理解にもかかわらず、本質的にその音楽の中心から疎外された、周縁の存在であることを、近づくたびごとに確認することを強いられるのだ。
ポップスとはまた別に存在するポピュラー音楽の豊かさ、多様性を感じるとることのできる良書。