閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

お顔

桃園会
http://www.toenkai.com/index.htm

  • 作:佃典彦(劇団B級遊撃隊)
  • 演出:深津篤史(ふかつしげふみ)
  • 美術:池田ともゆき
  • 出演:はたもとようこ、亀岡寿行、紀伊川淳、長谷川一馬、武田暁、橋本健司、小阪浩之、樋上真郁、河井直美、森川万里、寺本多得子
  • 劇場:心斎橋 ウイングフィールド
  • 評価:☆☆☆☆★
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三月のザ・スズナリでの公演に続き、二度目に見る桃園会の公演。ちょうど帰省していたときに、タイミングよく大阪で公演があった。昨年、文学座での上演のテレビ放映を見て感銘を受けた『ぬけがら』の作者による書き下ろし新作を、深津演出で見ることができるのだから、見に行かないわけにはいかない。
期待どおり、知的な演出上の仕掛けによる奥行きのある舞台を堪能できた。非常に面白い公演だった。
三月公演とは作者は異なるが、舞台の雰囲気はとてもよく似ていた。
作品内容を象徴する抽象的な美術。冒頭に晦渋で、観客を戸惑わせるような場面を提示する。この難解な冒頭部を、不可解な状態に宙ぶらりんになったまま、じっくりと味わっておくと、後の展開を楽しむことができる。冒頭場面にドラマ全体が、観客の混乱は承知の上で、凝縮された上で提示されているのだ。
なぞかけはゆっくりと、じわじわと、ドラマの展開にしたがって明らかにされる。周到に用意された伏線が回収されていく快感はないわけではない。しかし桃園会の舞台は、なぞが明らかにされることによってさらに暗闇が広がっていくような、解決不能な部分が無限に拡大していくかのような、不可解さを常に提示し続ける。

『お顔』は心理ホラーものといっていいだろう。キャリアウーマンと教師の夫婦のあいだに、待望の子供が生まれる。ところが子供が生まれてしばらくすると、この女性は今まで見知っていた人間の顔が別人に見えてしまう、といった症状が現れる。最初は長年飼っていた亀の顔が違うと言い出す。そして自分の子、会社の後輩、友人たち、夫。徐々に身の回りの人間の顔つきが、それまで見知っていたものとは違うものになっていく。周囲の人間が他人に入れ替わってしまう恐怖にこの女性は狼狽し、恐慌をきたす。この女性のパニックのなかで、家族関係のさまざまな欺瞞が暴かれていく。

周りから見るとこの女性は徐々に狂っていっているのだ。しかしこの作品では自分を支えていた世界がぼろぼろと崩壊していく感覚を、この女性の視点から描いている。なじみの人物が、見知らぬ存在に変わっていしまうグロテスクな不安感がリアルに表現された芝居だった。