閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

La Pupa teatro 12 おとなの時間

a プログラム
人形劇団プーク

  • 劇場:新宿 プーク人形劇場
  • 上演時間:1時間30分(休憩15分)
  • 評価:☆☆☆☆

http://www.puk.jp/#
『その後の…その後のE.T.

  • 原作:石坂啓
  • 脚色・演出:西本勝毅
  • 美術:鈴木英夫
  • 音楽・効果:吉川安志
  • 照明:三上つとむ
  • 光・特殊効果:田中敬

『手ぶくろのコメディー』

  • 作・演出・美術:トドルカ・ルスコーヴァ
  • 演出補:井上幸子
  • 人形美術製作:人見順子
  • 照明:三上つとむ

『動物たちのカーニバル』
サン・サーンス「動物の謝肉祭」より

  • 構成・演出:ニコリーナ・ゲオルギェヴァ
  • 照明:阿部千賀子
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今月は人形劇団プークによる「La Pupa Teatre」と題された大人向きの公演が、新宿のプーク人形劇場である。今週、来週、再来週でa、b、cの三つの構成のプログラムが上演される。
http://www.puk.jp/

普段のプークは小さな子供向きの人形劇公演が中心で、大人向きの公演は不定期で今回は二年ぶりになる。人形劇が盛んな東欧ブルガリアのベテラン演出家を招聘しての公演で、普段の公演よりちょっと多めに気合が入っている感じがした。
今日はaプログラム。石坂啓作『その後の…その後のE.T』、ブルガリアの演出家による『手袋のコメディー「白鳥の湖」「キャバレー」』、別のブルガリア人演出家による『動物たちのカーニバル』の三作品の上演だった。いずれも30分ほどの作品。

最初は石坂啓原作の『その後…その後のE.T』。
異星人E.Tは、夫婦に息子二人の平凡な四人家族の家にある日突然やってくる。それは年老い、痴呆が進み、まともな言葉を話すこともできなくなった父親の父、おじいちゃんに、末の子供がつけた「呼び名」だった。コミュニケーション不能の家庭内異物としておじいちゃんは家族から疎んじられる。しかし末の子供だけはおじいちゃんを「ET」と呼んで、その不測で珍妙な反応を面白がっている。そして面白がりつつも、この家族内異物である老人に対し愛着と同情心を抱いている。「ET」の介護は大変な負担だ。彼は施設に送られることになった。末っ子はETを家から連れ出して逃走する。逃走するETを不思議な光線が包み込む。ETはその神秘的な光とともに空の彼方へ姿を消す。
しばらくたったある日。夫婦は平穏な生活の回帰を喜んでいる。また末っ子が祖父がいなくなったことを平然と受け入れているようであることに安堵していた。しかし末っ子は両親の考えなんてお見通しだ。彼は彼なりに祖父の死を受け入れていたのだ。
人形劇の人形というとやわらかい材質のものを思い浮かべるが、この作品の人形はやかんや水差しなど金属製の容器・食器を加工したもので、その造形はとてもユニークだ。役者は出遣いで金属容器人形(というよりは人形に見立てた金属容器)を操作する。痴呆老人、介護というリアルな主題はこのユニークでユーモラスな人形を介して表現されることにより、ある程度の距離感をもってドライな雰囲気のなかで提示される。照明はいい感じで人形を操作する役者の顔をぼんやり映し出し、その表情の変化が食器人形のかちかちした無機的なやりとりと組み合わされることで、アイロニー的効果を生み出していた。二人の役者が複数役を演じ分けるあわただしさをギャグとして使うやり方もうまい。

演目の幕間には、来週行われるbプロの「金壺親父恋達引」(モリエール原案、井上ひさし作)に登場する人形が出遣いで現れ、来週の演目の宣伝を織り込みながら、観客をいじる。

「手ぶくろのコメディー」はてぶくろ-指人形を使ったレビュー風の可愛らしい出し物だ。全部で50分ほどの長さのいくつかのエピソードで構成されていようだが、今回は「白鳥の湖」と「キャバレー」が上演された。よたよたとした指の動きで、大混乱の舞台が表現される「白鳥の湖」も面白かったが、より笑ったのは「キャバレー」である。「キャバレー」では指人形によるストリップやフレンチ・カンカンが演じられる。
19世紀末から20世紀始めのパリの文芸キャバレー「黒猫」では、連夜、レビューや手品に加え、洒落たセンスの独白劇、人形劇、影絵劇が上演されたそうだが、この「手ぶくろのコメディー」はそうした娯楽の雰囲気を連想させる出し物だった。

休憩をはさんで、『動物たちのカーニバル』。この作品は1960年代から上演され続けているという。前説で演者二人が演目の説明をしたのだけれど、大人の観客が中心の今日は普段と勝手が違って緊張してしまったのか、カミカミの演目紹介になってしまった(一度舞台袖に引っ込んでやりなおしたのだけれど、やっぱりカミカミだった)。演目はサン・サーンスの《動物の謝肉祭》に合わせて、手による影絵で十数種類の動物を複数の演者によって表現するというものだった。手影絵とはいえ、その造形と動きはダイナミックで、思わず自分でも手のかたちを作ってみながら見入ってしまった。

来週上演されるbプロの「金壺親父恋達引」は、モリエールの傑作喜劇『守銭奴』を、井上ひさし文楽公演用に翻案した作品である。音楽はマリオネットというアコースティック・ギターのデュオによるもの。僕は2年まえに紀伊国屋ホールでこの作品を見ている。音楽がとてもいいし、人形劇独特の乾いた感じがモリエール井上ひさしの戯曲ととてもよく合っている。「守銭奴」のとても優れた翻案だと思う。

再来週のcプロは田辺聖子原作の「現代版イソップ」、太宰治の傑作『お伽草子』から「カチカチ山」、そしててぶくろ人形による「オセロ」の三本立て。こちらはいずれも未見の作品なので見に行くつもり。