閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

東京人間喜劇

http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?morephoto=ON&oid=9686

  • 脚本・監督・編集:深田晃司
  • 撮影:藤井光 長野徹志 戸倉徹 宇野淳也 手塚奈美
  • 照明:原春男 合田典彦 島田貴仁 加納俊哉
  • 出演:足立誠 井上三奈子 荻野友里 角舘玲奈 志賀廣太郎 根本江理子 古舘寛治 山本雅幸 ほか
  • 上映時間:130分
  • 場所:小竹向原 アトリエ春風舎
  • 評価:☆☆☆☆
                                          • -

オールキャスト青年団所属の役者による映画.ものすごくマニアックな映画のように思える.
面白かった.アゴラ支援会員なら見て損はないと思う.19日まで.
僕は月曜の7時の会を見た.客は10人ほどだった.

東京人間喜劇』というタイトルから予想していたが,バルザックの小説群「人間喜劇」で使われている人物再登場の手法で作られたオムニバス映画だった.ある小説に登場していた人物が,別の小説にも登場するというやりかたである.連作短編小説などでしばしば用いられている手法だが,この手法を最初に体系的に行ったのが19世紀フランスの小説家バルザックだという.彼の「人間喜劇」は約90編の小説によって世界が構築される壮大なものとなった.

東京人間喜劇』は「白猫」,「写真」,「右腕」の3編のエピソードからなる.エピソードの並び順は左のとおり.並び順と同じく,「白猫」<「写真」<「右腕」の順番で僕には面白かった.三番目の「右腕」の出来が圧倒的にいいと思う.
「白猫」は30過ぎの女性のうまくいかない恋愛の物語.前衛舞踊の公演でたまたま一緒になった二人の女性が意気投合するというのが筋の核なのだけれど,この結びつきの場面が強引で不自然に感じられた.喫茶店オーナー役の古舘寛治のいかがわしさ満点の演技がおかしい.いつもこのパターンの演技なのだけれどね.
「写真」は自意識の乏しい女の子が,写真の個展を開くけれども,周りの人間が自分に興味を持っていないことを残酷に知らされてしまうせつない話し.主人公の荻野有里の傷つく様子の痛々しさ,あーもう見ていてこちらもつらい.つらすぎておしりがむずむずする.僕に声をかけてくれれば,万難を排して見に行ってあげたのにぃぃ!!
三つ目の「右腕」が三本の中ではダントツで面白かった.片腕をなくしたニヒルな男の,意味不明の精神の彷徨の物語(?).主演の山本雅幸がすばらしくいい.もともとこの役者を僕は好きだった.どこが好きって,そりゃあの特徴的な顔立ちである.江戸時代の役者絵のようなどこか人を喰ったようなすねた顔立ち.この顔が非常に効果的に物語のなかで機能する.医者役の志賀廣太郎の診察のどこか投げやりであやしい雰囲気もすばらしい.

青年団役者の個性を生かして,東京の都会生活にありがちなイタイタしさを,ちょっとひねくれた視点で描いた佳作だと思った.
青年団の芝居が好きな人ならきっと楽しめると思う.そしておそらく青年団の芝居を見たことのない人も.