閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

オーカッサンとニコレット

劇団NLT
http://www.nlt.co.jp/

  • 翻訳:川本茂雄
  • 振付原案:坂上道之助
  • 演出:川端槙二
  • 音楽監督:つのだたかし
  • 演奏:タブラトゥーラ
  • 美術:松野潤
  • 照明:小宮俊昭
  • 音響:八幡泰彦
  • 衣装:藤井みちる
  • 振付:大原晶子
  • 劇場:池袋 シアターグリーン
  • 上演時間:1時間半
  • 評価:☆☆☆☆
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金曜マチネ公演。
この作品の劇団での上演は30年ぶりだそうだ。
原作は13世紀初頭の北仏で書かれた「歌物語」chantefable。脚韻を踏む音楽付の詩節から構成される「歌」の部分と散文で書かれた「語り」の部分が交互に現れるという特異な形式の物語である。テクストの60%以上が対話体で書かれていて、一人の話者が声色を変えて役柄を演じわけ、歌の部分では歌ったと考えられている。

城主の息子のオーカッサンとサラセン人奴隷の娘、ニコレットの愛と冒険の物語。フランス人であるはずのプリンスの名前がサラセン人風(アル・カッサン)であるのに対し、サラセン人奴隷の娘の名前がフランス人風であることをはじめ、産褥に苦しむ男の王様のいる国が出てきたり、当時の騎士道文学のパロディ的な描写も多く含まれる楽しい作品である。

岩波文庫から川本茂雄先生の正確であるのみならず、擬古文調の典雅で美しい日本語による訳が出ている。川本訳では作品は次のような一節からはじまる。

歌物語 オーカッサンとニコレット (岩波文庫)

歌物語 オーカッサンとニコレット (岩波文庫)

何誰が聴こし召されうや、
ニコレットにはオーカッサン
二人の眉目よき若者の
古き伝説の欣びや、
面輝ける乙女ゆゑ
若者忍べる大難儀、
樹てた手功の良き詩句を。

いろいろな興味深い工夫が導入された意欲的な演出の舞台だった。NLTはこの13世紀の「歌物語」を上手に演劇化していたように思う。とりわけベテラン古楽集団、リュート奏者のつのだたかしが率いるタブラトゥーラの生演奏で、原作が収録されている写本に記載されている音楽を効果的に使っていた。ちなみにリュート奏者のつのだたかしは、『恐怖新聞』のつのだじろうの実弟、さらにその弟は歌手のつのだ☆ひろである。おそるべき三兄弟。親はいったいどんな育て方をしたのだろうか。
このほかにも「語り」の使い方やパントマイム劇の導入など、原作のエッセンスを生かした演出がいくつもある変化に富んだ舞台だった。