閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ムサシ

http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=123

井上ひさし戯曲で蜷川演出、それに加え、キャストにあれだけ芸達者な役者を並べているのだから、悪い舞台にはなりようがない。藤原竜也、小栗旬の二枚看板は、二人ともが舞台をきっちりと支配できる圧倒的な存在感を持つ魅力的な役者だし。脚本・演出はこの二人の個性のぶつかりあいをうまく引き出すものになっていたように思う。また脇の役者がことごとく素晴らしい。鈴木杏、辻萬長、吉田鋼太郎、白石加代子といった超名人級の役者が並ぶ。このほかちらしには名前の記載がなかったが若い住職役の役者もこれらのビッグネームに負けないほど達者な芝居だった。脇の役者の持ち味、芸力も効果的に生かされた演出は見事で、どっしりとした安定感のある舞台だった。
しかし充実した座組の個性が生かされたよくできた芝居ではあったけれど、この座組のポテンシャルが期待以上に引き出されていたかというと、実のところ物足りなさを感じた舞台だった。もちろん決してつまらない舞台ではない、けれども役者がそろっているわりには、という感じだった。井上作品の新作は脚本がぎりぎりになるのがその一因なのだろうか、こういう舞台が多いように思う。

話は宮本武蔵-佐々木小次郎の巌流島の決闘の後日談である。佐々木小次郎が決闘で死なずに生き残ったという設定。鎌倉の小さな禅寺で二人は再会し、寺の供養みたいなのが終わった三日後に、再び決闘して決着をつけることになる。

上演時間は休憩時間15分を入れて、三時間半とかなりの長尺である。おおよそ30分ごとに場が移行する。最初の数場はテンポもあって、役者の芸力が惜しげもなく披露された充実した芝居が続いた。ギャグの場面の切れ味がよく、観客も沸いた。しかし休憩後の幕からは、脚本の上でも、演出の上でも一気に密度が落ちてしまった感じがした。芝居のリズムもぎごちないものとなる。
「ムサシ」を主題としていて、あのおざなりに感じられる生ぬるい結末は僕は不満だ。いかにもとってつけたような唐突な感じの幕切れのように思えた。
全般的に喜劇的な味が濃い娯楽作品にしあがっていたが、ドラマの起伏にとぼしく、内容がもたらす印象も浅い。人気者の役者を魅力をフィーチャアしたアイドル演劇としてはとてもよくできているのだけれど、藤原、小栗を含めた役者の潜在能力を思うと、贅沢であるが、いかにももったいない舞台であるように僕は思った。