- 作者: 西村賢太
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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- 作者: 西村賢太
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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- 評価:☆☆☆☆★
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『二度はゆけぬ町の地図』(角川書店、2007年)は、「貧窶の沼」、「春は青いバスに乗って」、「潰走」、「腋臭風呂」の五編。作者の若き時代の貧しく惨めで、それゆえに滑稽でもあるエピソードを題材とする。
『小銭をかぞえる』(文芸春秋、2008年)は、表題作と「焼却炉行き赤ん坊」の二編。女と同棲する作者の近年の生活を題材とするドメスティック・バイオレンスもの。作者のライフワークであるが、作者の放蕩のため遅々として進まない『藤沢清造全集』刊行作業のエピソードが挿入される。
作者である主人公の暴言は、歌舞伎の『助六』などにみられる「悪態」という技法を連想させる。その流暢なリズムとあまりにも身勝手きわまりない理屈には思わず失笑してしまう。ドメスティック・バイオレンスと人格攻撃のすさまじさとその言葉の技芸の鮮やかさは、井上ひさしの前の妻である西舘好子が、離婚後に、井上ひさしの暴君ぶりを暴露した私小説「修羅の棲む家」で引用される、ひさしの痛烈な嫌味の切れ味に匹敵する。
http://d.hatena.ne.jp/camin/20060121/1137863188
「それをいっちゃあおしまいよ」という人間の感情の芯から自由にほとばしるような悪口のシャワーには、後味の悪さの奥に、爽快感さえ感じてしまう。台詞のつくりが驚異的にうまいのだ。小説の人物のさもしさ、卑屈さ、悪らつさは、厳格な自己批評精神のあらわれであり、彼のかかえるようなやましさ、暗い欲望は多かれ少なかれわれわれの多くが共有するものだ。
開き直りのような悪と恥を開示する小説的技巧に優れている。娯楽性豊かで、痛快な自虐的私小説であり、作者は極めて戦略的に小説を書いているように感じられる。