閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ムツェンスク郡のマクベス夫人

http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000059_opera.html
ムツェンスク郡のマクベス夫人 ショスタコーヴィチ/全4幕
【ロシア語上演/字幕付】
【作 曲】ドミトリー・ショスタコーヴィチ
【原 作】ニコライ・レスコフ
【台 本】ドミトリー・ショスタコーヴィチ/アレクサンデル・プレイス
【指 揮】ミハイル・シンケヴィチ
【演 出】リチャード・ジョーンズ
【美 術】ジョン・マクファーレン
【衣 裳】ニッキー・ギリブランド
【照 明】ミミ・ジョーダン・シェリン
【芸術監督】若杉 弘
キャスト
【ボリス・チモフェーヴィチ・イズマイロフ】ワレリー・アレクセイエフ
【ジノーヴィー・ボリゾヴィチ・イズマイロフ】内山 信吾
【カテリーナ・リヴォーヴナ・イズマイロヴァ】ステファニー・フリーデ
【セルゲイ】ヴィクトール・ルトシュク
【アクシーニャ】出来田 三智子
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

  • 上演時間:3時間半(休憩30分)
  • 劇場:初台 新国立劇場オペラ・パレス
  • 評価:☆☆☆☆☆
                                                                                                                      • -

リチャード・ジョーンズ演出によるショスタコーヴィッチのオペラとなると期待しないわけにはいかない。彼の演出したオペラはこれまで二作品見たことがあるが、いずれも徹底的に読み込まれたテクストから、独創性に満ちた刺激的なスペクタクルを引き出し、音楽の作り出すドラマをその解釈に乗せることによって見事にそのイメージを増幅させるものだった。そして今回の舞台は期待を上回る極上の舞台だった。幕が開いてからカーテンコールまで、耳の奥がじんじんするような興奮をずっと感じながらの鑑賞となった。
演劇に比べるとはるかに簡素な歌詞の連なりを、音楽の調べとスペクタクルと融合させることによって、豊穣な意味を表出させる演出手腕は圧巻だった。すばらしかったのは演出だけではない。ニュアンスに富んだ音楽の表現もすばらしいものだった。ショスタコーヴィッチの絶望的にシニカルで、暴力的ともいえるほどの激しさを持つ音楽の魅力を引き出す演奏だったように思う。オケと合唱の表現は物語の展開と同調し、うねるようなドラマの起伏を作り上げていた。中流階級夫人の急激な零落と破滅を扱った物語は『マクベス』よりは、『ボヴァリー夫人』を連想させた。まさに僕が見たかった現代のオペラとはこういう舞台だ。大いに満足する。