閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

天変斯止嵐后晴 てんぺすとあめのちはれ

http://www.ntj.jac.go.jp/performance/2789.html

人形浄瑠璃によるシェイクスピアの『テンペスト』。舞台設定は日本の中世に変更されている。七場構成で上演時間は約二時間。中盤少々だれる場面もあったけれど、場ごとに趣向があって楽しんでみることができた。
登場人物、エピソードが上手に整理されていて、原作の骨格がきっちりと示されていた優れた翻案だったと思う。幻想譚である原作の雰囲気が人形浄瑠璃という形式のなかで効果的に生かされていた。泥亀丸(キャリバン)と茶坊主珍才(原作では酔っぱらい)による喜劇的場面、英理彦(エアリエル)が提示する妖精幻想譚といった主筋を彩る脇筋の部分がとても楽しい舞台だった。
義太夫節の語りも『テンペスト』のような物語にはうまくマッチするものだった。妖精の場面では琴を加えて変化を出していた。
義太夫の編成も場によって変えていた。冒頭の場面は三味線と琴の器楽合奏だけで嵐を表現する。その後の数場は語り手と三味線、琴が一人ずつの構成、最後のほうの場面になると、語り手、三味線、琴の数が場面上の人物に合わせて増えていく。人物が勢揃いする大団円の場面は祝祭的で華やかだ。
そして原作にあるエピローグの部分は、文楽版でも再現されている。

何の違和感も感じず人形浄瑠璃の『テンペスト』を味わい、楽しんだ。シェイクスピア劇の普遍性、自由さをあらためて確認することのできた舞台だった。