閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

木槿の咲く庭

前進座
http://www.zenshinza.com/stage_guide/mukuge/index.htm

  • 原作:リンダ・スー・パーク
  • 訳:柳田由紀子
  • 脚色:金子義広
  • 演出:十島英明
  • 照明:寺田義雄
  • 装置:内山勉
  • 効果:小倉潔
  • 出演:池田舞美、竹下雅臣、武井茂、浜名実貴、渡会元之、松浦豊和、亀井栄克、松永ひろむ、森愛美、又野佐紋、藤井偉策、北澤知奈美、高柳育子、針谷理繪子、志村智雄
  • 劇場:吉祥寺 前進座劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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木槿の咲く庭

木槿の咲く庭


韓国南部の都市大邱(テグ)近郊に住む兄妹を通して、日本占領下の朝鮮で「創氏改名」が施行された1940年から1945年の太平洋戦争終結までの五年を描く。原作は米国在住の韓国系二世の作家リンダ・スー・パークの小説で、作家自身の母親がモデルになっている。

前進座らしい熱くて真っ直ぐな芝居だった。題材に新鮮味はなく、露骨なイデオロギー色にはちょっとひいてしまう感じもあるけれど、脚本がよくできている。相変わらない役者の熱演ぶりにはジーンと感動する。たまにこういう芝居を見ると、自分の心がちょっとはキレイになったような気がする。
皇民化政策の一環として創氏改名を強要したり、朝鮮の象徴ともいえる木槿の花を伐採し、桜を植えさせたり。われわれの先祖たちが、国家権力をバックに横暴で強圧的な振る舞いを朝鮮人たちに行う様子に立ち会うことになる。
兄妹の父は教頭先生をしていているのだが、家族を守るために日本人たちの横暴な振る舞いに対しては従順に振る舞っているように見える。印刷会社を経営している父の弟は、かつて反日的行動により投獄され拷問を受けたこともあり、今もなお日本人に対しての反感を抱いている。兄はこの叔父の影響を受け、民族の誇りを蹂躙する日本人に対する怒りを心の中に蓄積させている。妹の日本への態度ははっきりしない。彼女には日本人の幼なじみがいる。また漢字などの学習にも興味を持っている。親しみと反感が混じり合ったアンビヴァレントな感情を彼女は日本に対して抱いている。

他者を支配し、抑圧したいというのは、人間の持っている本質的な欲望の一つかもしれない。現代の日本社会でも至るところで支配・抑圧の構図はあるわけだが、権力を背景に他者を抑圧することに酔うことがおぞましい行為だという認識が多くの人に共有されているのはまだ救いがあるところだと思う。朝鮮総督府下の日本人の多くは、おそらく何の後ろめたさもなく、朝鮮人を差別し、抑圧していたに違いない。こうした差別・抑圧の巧妙さ、陰湿さについては、平田オリザの『ソウル市民』三部作で巧みに描かれている。

韓国の反日、日本の嫌韓がしばしば話題になり、とりわけネット上では比較的若い世代を中心に嫌韓的言説が支持されているような感じがある。日韓が現在抱えている様々な齟齬を解消していくにあたって(韓国側の誤謬も少なくないと思う)、まず日本がかつて30年以上にわたって朝鮮を併合、支配していたという事実の重さを、少なくとも我々の側としてはしっかりと認識しておく必要があるように私は思う。