閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

高円寺びっくり大道芸2010

http://www.koenji-daidogei.com/
昨年に引き続き、高円寺の大道芸を観に行った。1日、2日の二日間とも見た。一日目は娘と二人で、二日目は娘と娘の友達を連れて見に行った。二日間とも絶好の大道芸日和で、存分に祝祭的雰囲気を満喫することができた。
昨年このイベントに行ったときは大道芸の芸人をあまり知らなかったので、街を歩きながら行き当たりばったりにパフォーマンスを観てていたけれど、今回は目当てのパフォーマンスをピックアップして回る予定だった。ただなかなか予定通りにはいかない。三十組以上のパフォーマーが20数カ所の会場でパフォーマンスを行う。会場はかなり広い範囲に散らばっているので、実質5時間ほどの間にせいぜい4、5箇所ぐらいしか観ることはできない。昨年より人手は当然多くなっていた。さらに認知度があがる来年はどうなってしまうのだろう。パフォーマンスの場所の多くが商店街の街角といった狭い場所なので、かなり早めに行って場所を確保しておかないと人混みでよく見えない。人気のある芸人だと目当ての演目の15分くらい前には待機しておかないと見られない可能性もある。

びっくり大道芸の第一日目、最初は北口駅前広場で、オープニングで消防署の協力ではしご車を使ったパフォーマンスがあったのでそれを見た。高円寺駅のホテルに外国から招聘された芸人が宿泊しているのだが、そのホテルの上層階の窓からはしご車をつかって芸人がパフォーマンス会場である広場に降りてきた。降りてきたのはフランスのシルク・バロックの芸人だった。それからブラックエレファンツという強面で黒い服に身を包んだ男たちの金管楽器クインテットの演奏を聞いた。引き続き北口広場でシルク・バロックの演目を見たかったのだけれど、娘が腹が減ったと言うので、座・高円寺に移動して二階のカフェ・アンリ・ファーブルで日替わりランチを食べる。ウェイトレスの女性がものすごく可愛いかったので得した気分だった。彼女目当てで翌日の昼食もここで取った。

座・高円寺の地下二階で端切れ布を使って飾りのついた帽子を作るアトリエをやっていたので、食事後、娘はそこで40分ほど帽子作りをしていた。この帽子作りが楽しかったようで、娘は翌日も友達と一緒にこの帽子作りのアトリエに参加した。娘の友達も図画工作が好きな子だ。二日目は1時間ほど二人は帽子作りに没頭。やりはじめるとけっこうはまるようだ。アトリエのスタッフが付かず離れずのいい感じで子供たちの作業に介入している。参加者の中心は小学1年生ぐらいの子だったが、二日間とも盛況だった。公共劇場がこうしたアトリエを開催するのはユニークだと思う。昨年のオープン時から座・高円寺では「みんなの作業場」と題した子供向けのアトリエを継続的に行っている。地域の公共劇場としてのあり方を模索した上での一案なのだろう。知人が座・高円寺の運営に関わっていることもあり、昨年娘をこの「作業場」に連れて行ったことがあったのだが、正直、劇場が演劇とは直接関係のないこうした活動を行うことの意味は少ないのではないかと思っていた。しかし一年間模索しながら「作業場」を続けていくことで、活動のかたちがはっきりし始めたようだ。昨日今日の帽子作りアトリエは、大道芸祭とリンクした「作業場」の特別編だが、その賑わいに一年間の活動の成果が現れているような感じがした。劇場が演劇の上演だけでなく、地域の文化的活動、祝祭の核として着実に機能しはじめているように感じた。

一日目は帽子作りのあと、プラノワという女性のアコーディオン奏者と男性のジャグラーのコンビのパフォーマンスを見る。アコーディオンの甘い調べとジャグリング芸の繊細なコンビネーションがほんわかした暖かい空気を作り出していた。男のジャグラーはハンサムで、女のアコーディオン奏者はキュートで愛らしい。

次は森田智博というソロ演者によるジャグリングを別の場所で見る。バロック音楽をバックに華麗にリズミカルに高度なジャグリング芸が繰り広げられる。息を呑んで注視させてしまうような鮮やかな技芸だった。中でも七つのボールを使ったお手玉は圧巻だった。こういった芸のときに芸人が発散する集中力にしびれるような感覚を味わう。観客をここで一気に引き込んでやるぞっ、という気合いが伝わってくるのだ。こういった瞬間の芸人には崇高ささえ感じる。

その後はパントマイムのバーバラ村田である。今回、一番の目当てはバーバラ村田のパフォーマンスだった。エロチックでちょっと悪趣味なところもあるのだけれど、娘もバーバラのショーが大好きだ。彼女の演技はいい場所で見たかったので始まるだいぶ前から会場に待機していた。客がらみの導入部のあとに彼女の至芸、人形とのダンスが始まる。このダンスは何度見ても本当に素晴らしい。冒頭の観客とのからみでは私がパートナーに選ばれるという幸運もあった。展開と音楽が絶妙にシンクロしていて豊かな物語を紡ぎ出す。完璧に構成された濃密な30分のファンタジーを堪能する。エロチックで、ユーモラスで、切なくて、美しい。彼女のパフォーマンスは翌日も見た。妖しい抒情にあふれた彼女の世界、もっと多くの人に知って欲しい。

一日目のラストは北口駅前広場でのシルクバロック。鉄パイプの簡易櫓でロープを使ったアクロバットを見せる。会場の北口に着いたときにはもうパフォーマンスが始まっていて、近くで見ることはできなかった。人の頭越しに遠くから見る。口上役が日本語を使うようになった。うーん、フランス語のままのほうがよかったかも。

二日目は娘と娘の同級生の男の子の三人で行った。まず座・高円寺に行って二階のカフェで昼食を取る。その後座・高円寺地下二階で帽子作り。この日最初に見たパフォー案素はバーバラ村田のダンス・パントマイムだった。十四時から、強い日差しが照りつける日向での公演だった。今日の日中は気温がかなり上がったので、踊るバーバラ村田はもちろん、見る方も汗びっしょりになった。商店街の脇道のマンションの前の公演。

次の会場に移動の途中に、ウォーキング・アクトの演者である白塗り着物のかなり病的な雰囲気の女性マイムのみたま、全身銀色のun-paの二人と遭遇する。子供たちはその後un-paのパフォーマンスを見た。どんどん服を脱いで、最後はパンツ一丁になるものだったとか。

バーバラ村田の次は前から見たかった加納真実のソロ・パフォーマンスを見た。彼女の芸はパントマイムを土台にしたものではあるが、その芸風は極めて特異だ。いかにも安物の青いジャージ上下が衣裳である。不可解でどことなく黒い雰囲気の漂う「準備運動」を行った後、五輪真弓の「恋人よ」に合わせ、モテナイ女のドロドロした情念の世界を絶妙の客いじりを組み合わせたパントマイムで表現する。それから主婦の洗濯をハードロックに乗せて過激な馬鹿馬鹿しさとともに再現。最後は「恋」と題される演目では、チャゲ&飛鳥の「ひとり咲き」に合わせた「恋」と「鯉」、「花」のシュールでナンセンスな歌詞再現芸。いずれも危ない雰囲気が濃厚で大爆笑ものの至芸だった。加納真実の芸はYouTubeなどにもけっこう上がっているのだが、もちろん生で見る方が圧倒的に素晴らしい。インパクトは強烈。大いに満足する。

その後もこれも前から見てみたかったサンキュー手塚のコメディ。これもパントマイムがベースの芸だが、独創的なアレンジとアイディアで瞬発力のあるナンセンスな笑いを作り出す。「世界に通用するストリート宴会芸」というのがその芸風を的確に示唆している。観客の巻き込み方もうまい。プログラムはいずれも観客を演技場に呼び込んで行うものだった。絶妙の構成で冒頭から一気に観客を引き込み、高いテンションのまま30分そのまま突っ走る。くだらなくて馬鹿らしい芸の連発に爆笑し、ほとんど感動してしまう。

最後に見たのは女性と男性のコンビニよるアクロバットコメディ、GちょこMarble。展開にもう少し明確で意外性のあるストーリーが欲しいように思った。その前に見たバーバラ、加納、サンキューの独創的な仕掛け、卓越した構成力に驚かされただけに、ちょっと物足りなさを感じた。パントマイムとアクロバットという芸の違いはもちろんあるのだけれど。観客の女性にちょっかいを出す浮気男と男の女たらしぶりに激怒する怖い恋人というキャラクター設定も中途半端な感じがした。観客の予想通りの行動パターンしかないので、コメディとしてはそれほど面白くないのだ。ただし巨大な風船を使った(人間が風船のなかに吸い込まれてしまう)芸は見たことがない種のものだったので大いに楽しむことができた。

昨日と今日で八組の芸人の至芸を堪能できた。親子で非日常の悦びに浸った楽しい二日間だった。こういう大規模な祝祭的イベントを新たに作っていこうという高円寺、杉並区の活力は素晴らしい。羨ましい。