閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ヘブンアーティストTOKYO2010 大道芸祭@上野公園

ヘブンアーティスト トップページ

  • GABEZ ☆☆☆☆
  • 加納真実 ☆☆☆☆
  • バーバラ村田 ☆☆☆☆☆
  • はっぴい吉沢屋 ☆☆☆☆
  • シルヴプレ ☆☆☆☆★
                                  • -

昨年に引き続きヘブンアーティストTOKYOに娘と一緒に行った。上野公園で行われる大規模な大道芸のお祭りである。今日は大学時代の友人も途中から一緒に見て回った。午後いっぱいいろいろな大道芸を楽しんだ。
最初に見たのはGABEZという男性二人組。動きの速いアクロバティックなダンスとコントを組み合わせた出し物。Youtubeにあがっていた映像が面白そうだったので見てみることにした。ダンスの動きのキレがいい。二人の演技のコンビネーションも決まっていて、ところどころにギャグが入る。途中から二人のパフォーマーのチャンバラから格闘に流れるコミカルなパントマイムのコントへと移る。最後のほうはちょっと単調に感じられたところもあったけれど、最初に見る演目としてはまずまず。元気が出て、気分が盛り上がる。

その後は先週三軒茶屋でも見た人形振りのパントマイム、Performer Partsのパフォーマンスを見てから、加納真実のパフォーマンスを観に行った。Performer Partsの人形振りをじっくり見たかったのだけれど娘がお腹が空いたとぐずぐず言い出したので途中で抜ける。
加納真実は5月に高円寺で見たのとほぼ同じプログラムだった。演技全体に漂う独特の狂気、妖気が彼女のパントマイムの魅力だ。音楽と歌詞と演技内容のコンビネーションもいい。パントマイムによる歌曲の世界の歪んだ再現という感じ。奇妙な準備運動のあと、「恋人よ」で中年独身女の孤独とどろどろした情念を描き出す。「乗」では風船、イルカから小動物まで様々なものに「乗る」様子を演じる。「集中」では恋と鯉とのダジャレがパントマイムで演じられる馬鹿馬鹿しさが可笑しい。

加納真実のあとは今日の私の大本命、バーバラ村田のパフォーマンスを観に行った。今回は初めて見る「かたわれ」という演目だった。この夏のヨーロッパ巡業中で頻繁にとりあげた演目だそうだが、日本の大道芸ではあまり披露の機会がないという。
これはもう絶品としか言いようがない素晴らしい作品だった。大道芸という場で上演するには異色のプログラムだと思う。客いじりも、笑いもない。20数分の完成された芸術的パフォーマンスだった。耽美的で官能的な表現が観客の想像力を強力に刺激する。
黒い衣裳に身を包み、目の部分を黒いレースで覆ったバーバラが登場する。素足が印象的だ。倒れ込み顔をゆっくり上げると、人面瘡のような白い仮面が演者の顔の部分に顕れる。かたわれの誕生だ。「かたわれ」の顔は演者の顔をゆっくりと移動し、そしてついには演者から離れ、もう一人の人物となる。「愛とは失われた自分の片割れを追い求め、一つに戻ろうとする欲求である」というプラトンが説いた愛のかたちが仮面との舞踊によって可視化される。二人は完全に分離しない。互いに激しく抱き合い、求め合って愛の悦びにひたる。クリムトが『接吻』で描き出した甘美な官能の世界がパントマイム演者自身と仮面の分身によって表現される。
ステレオタイプな道具立てかもしれないが、目の前で演じられたそのパフォーマンスのイメージの濃厚さと強さ、そして倒錯的な愛が描き出す情景の美しさは強烈ですっかり魅了されてしまった。パフォーマンスの時間を忘れ、その時間まったく別の場所に連れて行かれたような感覚に陥る。こういう世界を大道芸という場で再現するっていうのが凄い。

バーバラ村田で魂を抜かれたようになったのだけど、その後ハッピイ吉沢の歌舞伎マジックの笑いで現実に戻る。歌舞伎扮装でギャグを交えながらの手品。手品が決まると観客は「よっ吉沢屋」とかけ声をかけるのがお約束。小学生五年生ぐらいだろうか、娘さんの口上がいい。クールな表情だが、リズムよく演技を説明する。演目の構成がよく練られていて退屈しなかった。

ハッピイ吉沢のあとは、男女二人のパントマイム・デュオ、シルヴプレの演技を見た。シルヴプレは前から面白そうだと思っていたのだけれど、これまで見る機会がなかった。白い服を着て、柔らかい微笑みを絶やさない二人組。しかし彼らのパントマイムのスケッチ3本の内容はその見た目の穏やかさとは裏腹にかなり黒い笑いを含む大人向きのものだった。スケッチの内容自体もユニークなものだったが、開演前の客いじりから、プログラムの構成がとてもいい。また女性のマイム、堀江のぞみさんがとても可愛らしい。清楚な雰囲気の彼女の微笑みはとても魅力的だ。シルヴプレはまた機会があれば観に行く。

最後はto R mansion。役者数人によるパントマイム仕立てのコントだったが、暗くなってきたし雨も降ってきたため、この演目は落ち着いてみることができなかった。ちょっとこちらも疲れてきたし。

でも今日はたくさん見ることができて満足。これで東京での大きな大道芸のお祭りはもうしばらくない。次は5月の高円寺かな。待ち遠しい。