閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ラ・プティット・バンド バッハ・プログラム La Petite Bande

久しぶりに古楽のコンサートに行った。ベルギーの古楽演奏団体、ラ・プティット・バンドのバッハ・プログラムの割引チケットが出ていて衝動買いしてしまったのだ。《ブランデンブルク協奏曲》の2,6,5,3番(演奏順)と管弦楽組曲第2番という宮廷音楽のプログラムだった。《ブランデンブルク協奏曲》は2番と4番でリコーダーが使われていることもあって昔はいろんな演奏を聴いた。管弦楽組曲第2番も好きな作品の一つだ。

会場は葛飾区青砥にあるかつしかシンフォニーヒルズ。客の入りは2/3ぐらいだった。会場が大きすぎたのだ。1500人ぐらいは入る会場だと思う。ラ・プティット・バンドは小編成の合奏団だし、あんまり大きな箱にはそぐわない。もっと狭い、親密な雰囲気の場所のほうがふさわしい。青砥という場所もこういう典雅な雰囲気の音楽にはそぐわない場所だ。

最初は《ブランデンブルク協奏曲》の第2番。この曲はトランペットのソロが入るのだけれど、バロック時代のトランペットはピストンがなく、息の強さだけで音程をコントロールしなくてはならないので大変だ。CDでの録音はともかく、ライブで《ブランデンブルク第二番》のトランペット・ソロを正確に吹くことのできる奏者は世界でもごく少ないのではないだろうか。今日のトランペット奏者もかなり苦しんでいた。

演奏は時間が進むにつれよくなってきた。アンサンブルの密度が高まり、各パートが有機的に反応しあい、バラバラに聞こえていた楽器たちが徐々に解け合い、統一した音の世界を形作っていく。前半は《ブランデンブルク協奏曲》二番のあとは六番。これはヴァイオリンを欠く弦楽による比較的地味な曲である。前半の最後はバルトルド・クイケントラヴェルソのソロを吹く《管弦楽組曲》第二番。ここでオケが一体となった感じがした。ソロと合奏がスリリングで刺激的な対話を始める。小規模合奏ならでは快感である。演奏者ののりが観客にも伝わってくる。

後半は《ブランデンブルク協奏曲》五番と三番という人気のある曲目が並んだ。五番は第一楽章の華麗なチェンバロ・ソロが聞きどころだ。チェンバロ奏者のバンジャマン・アラールはまだ若い。もったいぶったけれんがなく、軽やかで華やかかで、端正な雰囲気の演奏だ。その典雅な軽やかさはロココ風の優美と現代的な洗練が感じられた。フィナーレの三番はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ3つずつ配置される。これらの楽器のソロによる掛け合いが、リズミカルでスピード感あふれる陽性の曲調のなかで展開する。この楽器の対話が本当に楽しい。演奏者が合奏を楽しみ、のって演奏しているのが伝わってくる。音楽のきらめきによって会場の空気が軽くなったような気がした。密度の高い素晴らしい演奏だった。

できればもう少しこじんまりした会場で聞きたいコンサートではあったが。久々の古楽ライブ、やっぱりいいものだ。