閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

青い鳥

にしすがもアート夏まつり’11 子どもに見せたい部隊 Vol.5

  • 脚本・演出:倉迫康史
  • 音楽監督:棚川寛子
  • 美術:伊藤雅子
  • 衣裳:竹内陽子
  • 照明:佐々木真喜子(ファクター)
  • 音響:相川晶(サンドウィーズ)
  • 出演:佐藤円、渡辺麻依、加藤幸夫、井上貴子、平佐喜子、三橋麻子、村上哲也
  • 演奏:金子由菜、名倉歩美、棚川寛子
  • 上演時間:80分
  • 劇場:にしすがも創造舎
  • 評価:☆☆☆
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Ort-d.d.の倉迫康史演出の『青い鳥』をにしすがも創造舎に見にいった。ツイッターなどでの評判はとてもいい舞台だった。また当日、楽しんで見た親子連れの観客がたくさんいたと思う。
私の感想は肯定的なものではないので、楽しんで見られた方は読まないほうがいいと思う。


倉迫氏の演出とは相性がよくない。とりあげる演目が興味深いものが多くてこれまで何本か舞台を見たが、そのほとんどで退屈している。視覚的に美しい場面を作るのは長けていると思うし、役者の演技演出にもしっかりした戦略を感じるのだけれど。
今回の『青い鳥』は「子どもに見せたい舞台」という企画で、今年で五回目らしい。私は数年前に同企画で倉迫演出の「オズの魔法使い」を見た。あまり面白いとは思わなかったが、五回も続いているということは定評ある企画なのだろうし、今回の「青い鳥」も私のツイッターのTL上では絶賛するツイートをいくつか見かけた。五歳の息子と十一歳の娘を連れて行った。

私は多分だめだろうなと思いつつ、メーテルリンクの「青い鳥」の上演ということで見にいくことにした。この象徴主義の詩人・劇作家にここ数年興味があるのだ。メーテルリンクはいずれちゃんと読み込んで見たいと思っている。

メーテルリンクはベルギーのフラマン語圏出身だがフランス語で書いた作家である。文学史的には象徴主義の詩人とされる。「青い鳥」は彼の作品のなかでは最も有名なものであるが、案外上演機会は少ないように思われる。私は舞台でこの作品を見たことがなかった。チルチル、ミチルという子供二人が主人公の童話劇だが、中世劇の一ジャンルを連想させる寓意的表現を用いた神秘的な道徳劇であり、戯曲としてはかなりの長尺で、必ずしも子供向けの他愛ない芝居とは言えない。

さて倉迫演出版「青い鳥」の舞台だが。
生演奏の音楽はとても素晴らしかった。音楽はク・ナウカの舞台音楽も担当している棚倉寛子。ヨーロッパ民話のステレオタイプを丁寧に実体化し、仕上げた感じの衣裳も素敵だった。「ひかり」が電飾ドレスを身にまとっていたのがよかった。具体の田中敦子の電気ドレスみたいにもっと派手だったらさらによかったと思う。

演出はやはり私は気に入らなかった。物語のなかに入り込むことができない。いわゆる子供向き芝居の記号的誇張を中途半端に模倣したような役者の演技に白ける。子供向きというとこういう陳腐な演技スタイルを提示してしまうことにうんざりしてしまったのだ。平田オリザの子供向け芝居も同じような発想が見えたのでがっかりしたのであるが。あと展開のテンポが悪い。リズムが感じられないので、停滞感を感じてしまう。テクスト・レジの問題だと思う。観客参加の仕掛けは子供向き芝居の常套手段の一つとも言えるが、そのアイディアも斬新さが感じられないし、やはり今ひとつのりが悪い。芝居に勢いと新鮮さを呼び込むのではなく、むしろ停滞感を生じさせている。

20分ぐらい見たところで、やはり自分には合わないなと思う。この演出家の「子供劇」観自体に受け入れられないところがある。
悪口ついでになるが、「子供に見せたい舞台」という惹句にも抵抗を感じる。私の感覚では、演劇というのはとりわけ「子供に見せたい」というよりは「子供と一緒に見たい」のだ。子供と一緒に、演劇という手段が提供してくれる特殊な時間と空間を共有したい、楽しみたいと思う。子供が楽しむことができるのはもちろんだが、その前に子供と一緒に芝居を観る大人の私を楽しませることのできる作品であって欲しい。子供に見せたいのではなくて、子供と一緒に見たい舞台を私は求めている。子供を連れてくる親のことも観客として考慮された舞台でなければつまらないではないか。そうでなければわざわざ芝居を観に外に出かける労力・時間・お金を使うのが惜しくなってしまう。劇場に足を運ぶというのはけっこう大変なことなのだから。

悪口を書いてしまったけれど、子供たちはとても喜んでこの芝居を観たようだ。
あとになって知ったのだが、息子と娘はこの「青い鳥」のエンディングで感動して泣いたとか。

先日妻が昼間小説を読んで感動して(?)ぽろぽろ泣いていると、息子が
「なんで泣いているの?」
と聞いてきたそうだ。

「本のお話に感動して泣いたの」
「本でも感動して泣くんだ。感動って劇を見てするんだと思っていた」
「朝くん(息子の名)は劇を見て感動したの?」
「この前、パパと『青い鳥』を見て、最後、感動して泣いた」

全然知らなかった。子供席と大人席が離れていたせいでもあるが。私にとってはあまり面白くない舞台だったけれど、子供の心をつかむ魅力はあったのだろう。