閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

屋上庭園

武蔵大学演劇研究会
武蔵大学演劇研究会 初夏公演 「屋上庭園」

  • 作:岸田國士
  • 演出:新多至
  • 舞台監督:広野健至 井上和果奈
  • 舞台美術:岩本友香 浜崎菜月美 前角なみ 徳田鉄平 藤倉佳樹
  • 照明:山上明日実 高瀬勇佑
  • 音響:木谷英一 大友麻里子 清水泰行 早井真琴
  • 衣装:加野茜 牧田紗季-小道具:加野茜 前角なみ 伊藤愛結 古澤一恭
  • 出演:前川宏樹、古澤一恭、早井真琴、小室真穂
  • 劇場:武蔵大学内武蔵倶楽部B1 マルチスタジオ
  • 上演時間:40分
  • 評価:☆☆☆
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1931年に書かれたこの作品は、学生たちにとっては必ずしも扱いやすい戯曲ではないだろう。しかし自分たちの等身大の世界を描く作品ではなく、古典作品を上演作品を敢えて取り上げるという心意気がいい。80年前に書かれた作品ではあるが、岸田戯曲は洒落たモダンな雰囲気があり、古くささをあまり感じない。この硬質なモダニズムを若い学生たちがどう取り込んでいくのかに興味を持った。

上演会場は武蔵大学構内の50人ほど収容できる小さなホール。椅子の上には厚紙でできたビルを模した立方体が置かれていて、それを開くと色刷りの当日パンフレットになっている。開演前にかかっているBGMも現代音楽風の電子音楽で趣味がいい。この趣向にちょっと期待が高まった。

この芝居の登場人物は4人である。十数年ぶりに学生時代の友人が偶然、デパートの屋上庭園で再会する。どちらも妻を同伴していた。妻同士はデパートに買い物にでかけ、同級生の男二人が屋上に残って会話を交わす。しかし一人は金持ちの成功者、もう一人は貧しい社会の敗残者。成功した友人の配慮のいちいちに無意識の優越意識を感じ、敗残者はいらだち、自虐的なひねくれた言動を繰り返し、どんどん惨めな気分になっていく。

岸田戯曲の台詞をそのまま若い学生俳優が話していたが、残念ながら台詞をまるで消化できていない。役者が台詞をうまく処理できない異物感がそのまま口調になって現れる。台詞の内容からなんとか演技を引きだそうとしていたが、台詞の解釈が未消化なままなのでその芝居はとってつけたような紋切り型になってしまっていた。あの若くて未熟な役者たちが岸田戯曲を取り扱い、説得力のある表現を与えようとするのならば、もっと徹底的に戯曲を読み込んだ上で、自分たちの身体感覚に合うように戦略的に戯曲を変換していくような工夫が必要となるだろう。
岸田戯曲を選ぶという意欲は高く買うけれど、あまりに愚直に戯曲のことばを再現しようとしていて、古典を自らの表現とするための工夫が乏しい舞台だった。