閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

病は気から

コメディ・フランセーズ

  • 作:モリエール
  • 演出:クロード・ストラッツ Claude Stratz
  • 劇場:パリ コメディ・フランセーズ 

2001年2月22日

病は気から フランス国立コメディ・フランセーズ モリエール・コレクション [DVD]

病は気から フランス国立コメディ・フランセーズ モリエール・コレクション [DVD]

  • 評価:☆☆
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コメディ・フランセーズで『病を気から』をだいぶ前に見たことがある。ポップでスピード感のある演出で、身体的なギャグを多用して、作品の喜劇性、娯楽性を強調したものだった。特にぼんくらで医者の息子の変人ぶりが大きな笑いをとっていて、小学生団体にも大うけしていたのを覚えている。美術も黄色を基調とした明るい舞台だった。このときの演出家の名前は忘れてしまった。私がコメディ・フランセーズで見た最初の作品だったかもしれない。本場中の本場ともいえるコメディ・フランセーズのモリエールというのはもっと古典的でシックな舞台をやるものだと思っていたので、この現代の子供たちでも十分楽しめるようなかたちで、大胆に翻案され、「古典」に対するステレオタイプを打ち砕くようなこの演出の現代性はとても新鮮に感じた。

今回見たDVD版はこれとは別の舞台である。コメディ・フランセーズによる「モリエール・コレクション」というDVD全集のうちの一つ。来週、静岡でノゾエ征爾演出、SPACによる『病を気から』を見に行くことにしたので、見比べるために図書館で借りて見てみた。
私の記憶にあるコメディ・フランセーズの『病は気から』の舞台とはまったく異なる趣の演出だった。大ブルジョワの館というよりは、廃墟となった館のような暗く、荒涼とした舞台美術で、照明は基本的に暗いままである。冬の嵐のようなひゅーひゅーとした音が効果音として使われる。この音が荒涼とした雰囲気を強調する。時折使われる音楽も陰気な感じだ。

とにかく始終陰鬱で、静謐な「病は気から」だった。役者たちの演技も抑制され、作品に内在する喜劇性はそぎ落とされている。病によるノイローゼに罹っている主人公の老人、アルガンの病的な不安感が増幅され、舞台上を支配しているように感じられた。

明暗のコントラストを強調しした照明効果は、バロック絵画のラトゥールやカラヴァッジオのような美しさがあったが、とにかく陰鬱で気がめいる舞台で私は楽しめなかった。普通なら軽快でリズミカルに行われるだろう会話の喜劇的やり取りも、まるで亡霊たちが演じているかのように活気がなく単調だった。安易な笑いを排し、主人公の心の闇をクローズアップすることで新しい「病は気から」を提示しようとしているのだけれど、私には退屈な舞台だった。