- 音楽:アドルフ・アダン
- 振付:ジャン・コラリ/ジュール・ペロー/マリウス・プティパ
- 改訂振付:コンスタンチン・セルゲーエフ
- 脚本:テオフィール・ゴーチエ、サン=ジョルジュ、ジャン・コラリ
- 出演:ダリア・クリメントヴァ(ジゼル)、ワディム・ムンタギロフ(アルベルト);新国立劇場バレエ団
- 指揮:井田勝大
- 演奏:東京交響楽団
- 評価:☆☆☆☆★
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バレエの生の舞台を見るのは数年ぶり。
ロマン派の詩人、テオフィール・ゴーチエが台本を執筆したバレエ『ジゼル』を新国立劇場に見に行った。昨年5月に、ゴーチエの発表を聞いて以来、舞踊に限らず、大道芸などさまざまな種類のスペクタクルについて記述しているこのロマン派の詩人に関心を持ちはじめたのだ。
《ジゼル》は1841年初演でロマンチック・バレエの傑作とされているが、現在上演されるバージョンは、改訂が加えられ初演のものとはかなり異なるらしい。台本も大きな変更があるのだろうか?ゴーチエの台本の素材はハイネの「ドイツより」という作品だとのこと。 ゴーチエのアイディアは二幕目のほうにより強く反映されているらしい。
対照的な雰囲気の二幕からなる。舞台は中世ドイツの農村。一幕は農村の広場での村娘ジゼルと貴族のアルベルトの愛の交歓の様子が牧歌的に優雅に描き出される。森番のハンスという男がいるが、これはジゼルに片思いの振られ役。アルベルトは庶民に身をやつして、ジゼルを誘惑し、二人は相思相愛となる。しかしハンスがアルベルトの正体を暴き、アルベルトには婚約者もいたことが明らかにある。心臓の弱いジゼルはショック死。身分違いの恋は普遍的な主題だが、ジゼルとアルベルトの恋愛関係は、中世フランス牧歌のパストゥレルの騎士と羊飼い娘の伝統を感じさせる。ハイネの物語が直接のソースとのことだけれど、系譜を調べてみたい。
二幕は夜の場で、森の中の墓場が舞台。夜は異教の妖精たち、ウィリが支配する死と幻想の世界となる。死んで亡霊となったジゼルとアルベルトの幽玄な空間での舞踊が展開する。一幕と二幕の対象は、複式夢幻能の形式も連想させる。異教の存在が支配する夜のイメージも中世文学以来伝統的なものだ。中世文学が近代にフォークロアとなり、そのフォークロアを介して、ロマン派の時代に再び現れるという系譜の典型が《ジゼル》に見られることが非常に興味深い。
バレエはあまり見ていないので演者の踊りの巧拙はわからないけれど、スペクタクルとして非常に面白く、楽しんで見ることができた。大満足。劇形式と表現方法、劇内容のコンビネーションが素晴らしい。この主題にはこうした表現がぴったりとはまる。ドレープのついた絞り緞帳の額縁舞台も童話的物語の世界の提示に合っている。