閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

第二回関東中学校演劇発表会・2013関東中学校演劇コンクール(初日午後の部)

http://www.geocities.jp/kanchuenkyo/2013/program.html 

「第二回関東中学校演劇発表会・2013関東中学校演劇コンクール」を娘と一緒に横浜に見に行った。二つ表題が並んでいるが、発表会がコンクールを兼ねるということのようだ。 

3/26-3/27の二日間で選抜された関東地区12校の演劇部の公演が行われる。上演時間は各演目1時間なので、審査委員の先生は、二日で12時間芝居を見ることになる。これは相当な重労働のはずだ。 

初日である3/26の午後に上演された4演目を見た。 

 

ワンダーランドの劇評セミナーに高校演劇の先生が参加していて、その先生に聞いた話よると、東京地区の高校で演劇部は200以上あって、しかも近年増加傾向にあるという。全国だとおそらくこの倍ぐらいはあるだろう。だから高校演劇コンクールの都大会に出る20校に選ばれるだけでもそうとうなものなのだ。いわんや全国大会で優勝となると。演劇というとマイナーな芸術ジャンルで、部活のなかでもかなり特殊な世界に思えるが、意外に層は厚いのだ。高校演劇コンクールの優秀校の公演を数年前に国立劇場で観たことがあったけれど、純粋にスペクタクルとしてよくできていたし、内容も楽しんで見ることができた。同じ仲間で大きな舞台に立つことができるのはほんの数回だけということもあり、一回の舞台にかける気持ちの切実さ、一生懸命さが伝わってきて、見る側の感動が大きい。 中学演劇は高校演劇ほど層は厚くないとのこと。演劇部がない学校が多いし、顧問の先生の異動で演劇部がなくなってしまうことも珍しくないという話だった。 

 

最初の演目は、西東京市立田無第四中学校の『春一番』作者の斉藤俊雄は現役の中学教師で、中学演劇の世界で有名な人らしい。『春一番』は1981年の中学校放送部が舞台の作品だ。卒業を一ヶ月後に控えた時期、高校受験の直前の部室に集まる少女たちの群像劇である。中学から高校への変わり目、不安定に揺れ動く少女たちの心理の動きを繊細にとらえた優れた脚本だった。懐かしいキャンディーズの《春一番》が効果的に使われている。濃厚な叙情性、ノスタルジーにあふれる物語の切なさに、1983年中学卒の私は観劇中、号泣。吉田秋生原作、中原俊の映画『桜の園』(1990年のほう)の雰囲気も思い浮かぶ。中学生俳優たちの台詞回しは必ずしも上手ではなかったかもしれないけれど、中学生がやっているというだけでいい。1000人ほど入る広い会場の観客に向かって台詞をしっかりと伝えようとするひたむきさが感じられ、そのかすかな不器用さに味わいがある。中学演劇、生涯一本目でいきなりやられてしまった。 

 

二本目は東京大学教育学部附属中等教育学校による市堂令作『さらば夏の思い出』。市堂令は劇団青い鳥が集団創作をやっていた頃の名義だ。これも出演者は女性だけ。夏休みが終わった直後の教室の風景から始まる。授業の様子がドリフの教室コントのようなかんじで最初続く。その後、夏休みに不思議な森で昆虫採集をしているときに行方不明になった少女の伝説の探索という幻想的な場面へと移行する。この演目は出演者全員が達者で個性的だったが、その中に誰が見ても注目せざるを得ない印象的な美少女がいた。石田ゆり子似のこの子、見た目だけでなく芝居もいい。 

 

三番目は横須賀市立大津中学校の『タイトルは未定』。作者の北口大和はこの学校の演劇部OBで、後輩たちのためにこの作品を書き下ろしたとのこと。中学演劇部が舞台で、なかなか決まらない公演演目の稽古場面を再現するというメタ演劇もの。部員同士のほほえましい恋愛の風景がこのなかで描きだされる。たくさんの人物が出てくるが、それぞれの人物のキャラクターが明瞭だった。洗練された身体的ギャグもふんだんに盛り込まれていて、今日私が見た四本のなかでは、学生たちの観客の反応はこの作品が一番大きかった。ただちょっと仲間受けを狙ったようなところもあり、物語の深みは乏しい。世界の理解のしかたが平板でいかにも若い人が作った感じ。私にはちょっと物足りなかったが、演者たちがこの作品を愛し、一生懸命作ってきたことが感じられる気持ちいい芝居ではあった。 

 

四本目は石神井東中学の演劇部による畑澤聖悟作『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』。昨年の高校演劇全国大会でこの作品を上演した青森中央高校は最優秀を獲得したそうだ。作品については畑澤聖悟のブログ、渡辺源四郎商店店主日記に詳しい説明がある。 

http://nabegen4ro.exblog.jp/ 

畑澤聖悟の作品を見るのは私はこれが初めてだった。青森中央高校演劇部のために書かれた作品であるため、それを練馬区の中学生が演じることによる違和感を最初のうちは感じたが、次第に気にならなくなった。弱小高校野球の女子マネージャーがイタコのおばあさんをコーチに招き、東北震災の津波による被災地から転校して来た男の子に沢村栄治の霊を憑依させることで、高校野球青森県大会を勝ち抜いていくという喜劇的ファンタジーである。この作品は被災地でも何度も上演されているという。どこでも上演できるよう舞台美術も照明も使われていない。美術的な要素をすべて人によって表しているのだが、その表現のアイディアがとてもユーモラスで、独創的だ。全体は喜劇調だが、ラストは泣かせが入る。被災地の人たちはこの芝居を見て泣くに違いない。私も泣いた。よくあるタイプの仕掛けではあるが、非常に効果的だった。 

 

1時45分に始まって4演目目が終わったのが6時15分ぐらいだった。4時間ぐらい芝居を見ていたことになるが、案外疲れなかった。芝居のクオリティは予想していたよりもはるかに高い。一演目たりとも退屈したものはなかった。中学生の身体でしか表現できない演劇的リアリティってあるなと思った。中学生の芝居はやはりすごくひたむきで純粋な感じがして、胸にせまるものがあった。