劇団前進座
『花木村月夜奇妙 (はなのきむらつきよのきてれつ) -どろぼうたちの月の夜-』
- 原作:新美南吉
- 脚本・演出:鈴木龍男
- 美術:佐藤琢人
- 照明:田中祐太
- 音楽:日高哲英
- 振付:吾妻寛穂
- 効果:横山あさひ
- 出演:柳生啓介、亀井栄克改め早瀬栄之丞、藤井偉策、有田佳代、本村祐樹、平澤愛
- 上演時間:80分
- 劇場:渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール(6階)
- 評価:☆☆☆
前進座の親子向け作品の新作、『花木村月夜奇妙(はなのきむらつきよのきてれつ)』を小2の息子と一緒に渋谷の伝承ホールに見に行った。
原作は新美南吉の童話「花のき村と盗人たち」だが、私は原作を読んだことはない。新美南吉の作品で記憶にあるのは、代表作の「ごんぎつね」と「てぶくろをかいに」の2編だけ。でもこの2編はとても好きな作品だ。
『花木村月夜奇妙(はなのきむらつきよのきてれつ)』は盗人が主人公の話だが、村人たちも盗人たちも出てくる人物はみな善人ばかりである。盗人が弟子3人を引き連れて、花木村というのどかな田園の集落に盗みを働きにやってくる。弟子たちの前の仕事は、錠前職人、大道芸人、大工だった。盗人頭が村の様子の下調べを3人に命じるが、3人とも前職の習いが抜けず、まともな下調べができない。
盗人頭のほうは、弟子たちを下調べに行かせ、一人佇んでいるときに、美しい少年に子牛を一頭託される。子牛は盗人頭にすぐ馴れる。子牛を可愛がっていると、村の女の子がやってきて、よそ者の盗人頭を怪しむことなく、親しげに話しかける。村役人もそこにやってくるが、彼も見知らぬ盗人たちを怪しむことなく、彼らを客人として歓待しようとする。村人たちの善意に感動した盗人たちは、涙を流して改心し、この村に住み続けることになる。彼らを月光が優しく照らし出す。 盗人頭に子牛を託した少年は村のお地蔵様だった。
民話劇というよりは、宗教説話のような趣がある話だ。人物造形や物語の徹底した清廉さが心を打つ。しかしその内容はあまりにも健全で、定型的すぎる。
『花木村月夜奇妙(はなのきむらつきよのきてれつ)』という歌舞伎風のタイトルが示すように、俳優の演技にはところどころ歌舞伎風の演出が入っていた。今公演の出演役者は若手ばかりだが、前進座は歌舞伎上演も行っているので、所作のひとつひとつは決まっている。前進座らしい隅々まで丁寧な楷書体で書かれたようなきっちりとした演劇で、よくできた児童劇民話劇ではあるけれど、そのきっちりしすぎたところが逆に窮屈さとなっている。 健全明朗な劇の内容もあって、驚異的な完成度の学芸会芝居のようになってしまった。
物語も演出も音楽も美術も、あまりにも型の枠内にきっちり収まっているため、驚きがないのだ。予定調和。商業演劇である前進座の芝居はそもそもその観客層に合わせた安心して見られる芝居ではあるけれども、ここまで想定内の要素だけで作られてしまうと、見ていてやはりあまり面白くはない。