閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

キリンバズウカ『マチワビ』

http://kirinba.seesaa.net/article/369502647.html

  • 脚本・演出:登米裕一
  • 舞台監督:土居歩
  • 舞台美術:青木拓也
  • 照明:吉村愛子
  • 音響:星野大輔(サウンドウィーズ) 
  • 音楽製作:碇英記
  • 演出助手:山口千晴(江古田のガールズ) 
  • 衣装:富永瑞木
  • 出演:日栄洋祐、こいけけいこ、加藤理恵上鶴徹、黒岩三佳、後藤剛範(国分寺大人倶楽部)、永島敬三(柿喰う客)、松永渚、森下亮(クロムモリブデン)、内田悠一(レボリューションズ)、折原アキラ(青年団)、金聖香、助川紗和子、渡邊亮
  • 劇場:池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
  • 評価:☆☆☆☆★

  劇団(ではなくプロデュース制のユニットのようだが)初見。 何の予備知識もなく見に行った。スタッフをやっている劇評サイト、ワンダーランドの劇評セミナーの対象公演だったからだ。 

 父母ともにいない(父は失踪、母は死亡)三人姉妹の話。彼女たちは東京からそう遠くない小さな町にひっそりと暮らしている。その町には15年前に遊園地がオープンしたのだが、その遊園地はもうない。町の寂れ方が彼女たちの生活とシンクロしている。彼女たちの関係、生活にもどこか沈痛な倦怠感が漂っている。 しっかり者で安定した長女がこの三人姉妹家族の支柱となっている。次女はかつて「予知夢」を見る能力があったことで注目され、超能力少女としてテレビでもてはやされたことがある。しかしその特殊能力が衰えるとともに視聴者に飽きられ、今は姉妹とともにこの町で無為の日々を送る。美しい女性だけれど、その表情は明るくなく、どこか疲れているように見える。三女はタレント志望で気が強い。かつてアイドル的存在としてテレビに出演していた次女に嫉妬している。 この寂れた町の遊園地跡に、東京からやってきたという若い男が入り込み、次女と出会うところから物語は始まる。次女はなぜかこの見知らぬ若い男に過剰に親切であるように感じられる。 

 

 キチンと丁寧に作られた感じの舞台だった。この種のウェルメイドな演劇で私が心動かされることはあまりないのだけど、この作品は素直に楽しんで見ることができた。ああいう優しく、儚い物語を今日は欲していたのだと思う。ほっと気持ちが安らいだ。役者がみな素晴らしい。登場人物それぞれに存在感と味わいがある。次女役の加藤理恵さんは「the 美女」だし、長女役の黒岩三佳さんの台詞の間と雰囲気にも引き込まれた 。 役者の抑制のかかった芝居のセンスがよく、すべてを語らせない脚本、表現しすぎない演技により、精妙なニュアンス、暗闇が役者たちのふるまいから立ち上がる。

 回り舞台となる主舞台、それに加え上手に二つ、下手に一つの補助的な小さな演技場が設置され、その4つの舞台空間を巧みに使って、展開は優雅で心地よいリズムを作り出す。ときに軽く跳躍し、ときに線上に連なり、あるいは重ね合わされ。計算されたナレーションも効果的だった。 軽やかで乾いた展開が、切なさ、儚さをたたえた抒情を生み出し、柔らかい幸福感に満たされた結末がじわじわとした感動を呼び起こす。 

 現実と非現実をゆるやかに、軽やかに行き来させる洗練された劇作術に乗せられた。