閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

三人吉三巴白浪

劇団前進座
前進座劇場ファイナル公演 三人吉三巴白浪

  • 作:河竹黙阿弥
  • 美術:鳥居清光
  • 照明:塚原清
  • 照明補:森脇清治
  • 音楽:杵屋佐之忠
  • 音楽補:杵屋佐之義
  • 立て:尾上菊十郎
  • 衣装:伊藤静
  • 出演:藤川矢之輔、山崎辰三郎、姉川新之輔、松浦豊和、河原崎國太郎、松涛喜八郎、嵐芳三郎、中嶋宏太郎、寺田昌樹、早瀬栄之丞、上滝啓太郎、忠村臣弥、本村祐樹、北村海
  • 劇場:吉祥寺 前進座劇場
  • 上演時間:三時間二〇分(休憩二〇分)
  • 評価:☆☆☆☆
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今年の初芝居。前進座劇場のファイナル公演の初日でもあった。苦労して作り、維持してきた自分たちの劇場がなくなってしまうのだから、座員の方々の思いはたまらないもののはずだ。その痛切な思いが舞台からも伝わってきて、単なる観客に過ぎない私も猛烈に悲しくなってしまう。開演前に座頭の中村梅之助から挨拶があった。梅之助はこのところ体調を崩していて舞台を休演している。今日の挨拶の様子もその調子がまだ万全でないことはうかがい知れた。しゃがれ声でときおりつかえながらも挨拶を行う梅之助を見てまた胸が詰まる思いだった。

前進座の『三人吉三』を見るのはこれが二回目である。巧みなテクスト・レジで三時間の枠内で、錯綜する因果のつながりが見渡されるような工夫がされており、物語の筋立てが明瞭に示されている。歌舞伎らしい場面場面のスペクタクルの美しさだけでなく、一編のドラマとして楽しむことができるのが前進座歌舞伎の特徴のひとつだと思う。二幕目で夜鷹の三人娘、おはぜ、おてふ、おいぼが、その直前の大川庚申塚の場での三人吉三が義兄弟の契りを結ぶ場面のパロディを演じるなど、喜劇的な場面も織り込んだ構成になっている。
和尚吉三が藤川矢之輔、お嬢吉三が河原崎國太郎、お坊吉三が嵐芳三郎。写楽の浮世絵から抜け出たような嵐芳三郎のすがたが美しい。この三役以外では、おとせを演じた忠村臣弥の優雅でたおやかな風情、堂守源次坊ほかを演じた中嶋宏太郎のディテイルにも工夫を凝らした達者な芝居ぶりが印象的だった。

小6の娘を連れて見に行った。娘と前進座の芝居をここの劇場に見に来るのは四回目くらいか。強盗、殺人、売春、近親相姦に同性愛と内容は、教育的に好ましくないのだが、私はこの芝居が大好きだ。三人吉三は運命に翻弄され、悪業に身を投じるが、その報いを堂々と受け止める。刹那を生き抜き、己の破滅に突進していく悲愴さに何とも言えぬ緊張感と美しさがある。台詞の音楽性、歌舞伎的スペクタクルの美しさ、そして邪悪を美を転換させる黙阿弥歌舞伎の劇作術のダイナミズムを、幾分かでも娘にも感じて欲しいと思ったのだがどうだっただろうか。