原作・台本:フーゴ・フォン・ホフマンスタール Hugo von Hofmannsthal
作曲:リヒャルト・シュトラウス Richard Strauss
指揮:高橋直史
演出・演技指導:三浦安浩
美術:鈴木俊朗
振付:伊藤範子
衣装コーディネーター:加藤寿子
舞台監督:髙橋尚史
演奏:ポロニア・チェンバーオーケストラ
出演:ヨズア・バールチュ(執事長)、小林啓倫(音楽教師)、原瑠菜子(作曲家)、菅野敦(テノール歌手、バッカス)、伊藤達人(士官)、日浦眞矩(舞踊教師)、駒場敏章(下僕)、清野友香莉(ツェルビネッタ)、飯塚茉莉子(プリマドンナ、アリアドネ)、村松恒矢(ハルレキン)、岸浪愛学(スカラムッチョ)、松中哲平(トゥルファルディン)、小堀勇介(ブリゲッラ)、根岸幸(貴族)
劇場:初台 新国立劇場中劇場
評価:☆☆☆☆★
ホフマンスタール台本、リヒャルト・シュトラウス作曲のこのオペラは前から一度見たかった作品だったのだが、これまで見る機会を逸していた。この二人の組合せのオペラは、他に《影のない女》、《エレクトラ》、《薔薇の騎士》があるが、中でもこの《ナクソス島のアリアドネ》に関心を持った理由は、この作品の初演版が17世紀フランスのモリエール/リュリのコメディ・バレ、《町人貴族》の改作であるからだ。 17世紀、ルイ14世に捧げられた宮廷スペクタクルが、20世紀はじめ、ウィーンのハプスブルク朝の末期にどのように読み換えが行われてるのか知りたかったのだ。
しかし今回上演されたのは、1912年に上演された初演版ではなくて、1916年に上演された再演版だった。現代の上演では1916年版を上演するのが通例となっているらしい。私は1916年版のことはまったく知らなかった。
基本的な劇構造は両版とも変わらない。劇中劇構造の作品なのだが、その構成はユニークだ。前半40分はプロローグで、とあるブルジョワ主催のオペラの上演会の準備が進んでいる。《ナクソス島のアリアドネ》というギリシア神話を主題とする悲劇が上演されることになっていたのだが、主催者のブルジョワがこの悲劇のあとに、笑劇的なオペラブッファの上演を別の舞踊団に依頼していたことがわかった。《ナクソス島のアリアドネ》の作曲者と出演者はこれでは作品がむちゃくちゃになってしまうと猛反発する。舞踊団はまじめくさったオペラより、こちらのオペラブッファのほうがお客に喜ばれるはずだと反論する。ブルジョワ主催者は最終的には、オペラとオペラ・ブッファを同時に並行して上演することを命じる。 ここまでが第一幕にあたるプロローグである。
第二幕は80分で、夫テーセウスにナクソス島に捨てられたアリアドネの悲哀の物語と旅芸人の女、ツェルビネッタと彼女の劇団たちの陽気な馬鹿騒ぎオペラが演じられる。最後はアリアドネはバッカスという新しい恋人を手に入れるというハッピーエンドになる。
第一部のプロローグの40分は、音楽に乗ることができずに少々退屈してしまったのだけれど、後半の劇中劇の部分で引き込まれた。とりわけツェルビネッタを演じた清野友香莉のコロラトゥーラ・ソプラノの至芸に魅了される。はすっぱでキュートな女の子のかっこうをした清野友香莉は見た目もいいし、動きもバネじかけのように切れがよくて美しい。そのコミカルな演技は、豊かな表現力はナタリー・デセイを思い起こささせる。
ファンシーな美術も作品の雰囲気をよく伝えていた。回り舞台やせりの機構を効果的に浸かっていた。軽やかで遊戯的な宮廷風優雅さといびつな劇中劇構造がもたらす醒めた現代性が結合した充実した舞台を楽しむことができた。