ハッピーアワー(2015)
上映時間 317分
製作国 日本
初公開年月 2015/12/12
- 監督: 濱口竜介
- 脚本: 濱口竜介 (はたのこうぼう)野原位 (はたのこうぼう)高橋知由 (はたのこうぼう)
- 撮影: 北川喜雄
- 音楽: 阿部海太郎
- 出演: 田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら
- 映画館:元町映画館
- 評価:☆☆☆☆☆
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私が2015年に見た映画のなかで、最も素晴らしい作品だった。今年最後の映画鑑賞で会心の一作に出会うことができた。神戸が舞台のこの傑作を、神戸の映画館で見ることができてとても満足している。
港町神戸に住む30代後半の女性4人の友情のありかたを描く。
平凡至極に思える人生も実はけっこう波乱万丈だったりする。30代後半、人生の後半期に入るころ、ふと生活のなかでの小さな疲れ、無理の蓄積に気がついてしまうことがある。これまで社会関係のなかで自分を自分として成立させるのに貢献してきた欺瞞や嘘、口に出せなかった思いを、一度振り払い、人生を一度リセットし、「再生」したくなるような時がやってくる。自分の抱え込んでいるものをすべて率直に吐き出してしまいたい、吐き出すことで自分の人生を取り戻してみたくなる衝動に襲われる。でもどうやったら、そうしたことができるだろうか?
『ハッピーアワー』で私が何よりも感動したのは、様々な葛藤のなかで日々を生きる4人の女性が、自分自身としっかり向き合い、いろいろな感情の混沌を引き受け、そして自分自身の思いを表明する行動や言葉を真摯に少しずつ見出す過程が率直に描き出されていることだ。劇中、第一部のエピソードの核となるいかにもうさんくさい「ワークショップ」はそうした仕掛けの一つとして象徴的な意味を持っている。
ワークショップや朗読会などのイベントやその打ち上げの場面の精緻なリアリズムにもしびれた。中途半端な知り合いが場を共有し、互いを探り合うぎごちない雰囲気やイベントの参加者が実は企画者の「身内」ばかりという身もふたもない実情の暴露。場面設定やシーケンスの展開に容赦ないリアリズムがある一方で、棒読みに近いやり方で行われる議論の内容は、妙に高尚で文学的だったりする。朗読会のあと、急にアフタートークの相手として朗読された小説について語る生命倫理学者のテキスト分析の見事さには驚嘆した。
展開はスリリングで飽きさせない。そしてこれまで演技経験がないという4人の主演女優のたたずまいと美しさに惹きつけられた。彼女たちはいずれも美しい30代後半の女性だ。その美しさは確かに「プロ」の女優にはない、微妙ないびつさと崩れがあり、それが大きな魅力になっている。
この作品を、ロケ地である神戸の映画館、元町映画館で見られて本当によかった。70席ほどの小さな映画館だが、今日の上映は満席だった。この映画で映し出される神戸には、有名な観光ポイントは含まれていないけれど、まさしく神戸の人間が生活の場として実感できる神戸の姿が取り上げられている。そのことが、神戸出身の私にはとてもうれしかった。そしてこのローカルな映画が、ロカルノ、ナントなどの映画祭で国際的評価を得ていることを誇らしく思う。