- 製作:ENBUゼミナール
- 監督・脚本:濱口竜介
- 撮影:北川喜雄
- 編集:鈴木宏
- 整音:黄永昌
- 助監督:佐々木亮介
- 制作:工藤渉
- 劇中歌:岡本英之
- 出演:平野鈴、佐藤亮、伊藤綾子、田山幹雄
- 時間:255分
- 映画館:ポレポレ東中野
- 評価:☆☆☆☆☆
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第一部がとある小劇場劇団の公演の制作過程を描く群像劇だ。中心となる人物は演出家の女性と脚本家の男。この二人は同棲している。第二部は第一部で制作されていた作品の上演がそのまま省略なしで提示される劇中劇である。最後に10分ほどごく短いエピローグが添えられ、劇中劇の外枠がまた提示される。合計で4時間を超える大作だが、その構成はいびつで大胆だ。
これだけの長編作品だが、そこで映し出されているのは若者だけで構成されているとある劇団の小さな日常だ。その日常の様子を実に丁寧に繊細に再現している。
登場人物はみなとても生真面目に自分たちの生活を引き受けようとしている。これは劇中劇の『親密さ』の登場人物も同様だ。外枠の劇団員たちと現実と第二部で彼らが演じる劇中劇の人物像がシンクロし、第二部は演劇公演という枠組みが明示されているにもかかわらず、そこでのやりとりは明らかに外枠のリアリティを反映したものになっている。彼らは演劇による再現というやりかたで、自分たちの姿や生活をさらに深く見つめたのだ。
劇中劇の『親密さ』には、要領が良く、何でもそつなくこなす、頭のいい青年が一人登場する。いかにも現代の若者の代表といった感じの人物だ。しかし彼以外の人物はことごとく不器用で、自分に正直にしか生きることができない若者たちだ。彼らは如才なく周りに合わせて、何となく生きていくことがむしろつらい。この後者のような若者たちも依然多数、この世の中にはいる。しかし現実の世界の彼らの多くは、その己の不器用さをつきつめてまじめに考えるすべを知らない。
濱口竜介の『親密さ』はこの世に実はまだたくさんいるはずの不器用な人間、人を傷つけ、人に傷つけられることのなかで苦しみながら生きていくしかないような人間へのはげましとなぐさめの歌だ。
そしてそつなくゆうゆうと生きているような人間でさえも、心のなかには何らかの鬱屈を抱えていないわけではない。そうしたままならないものと向き合うためにはどうすればいいのだろうか、こうしたことを一緒に考えてくれるような作品なのだ。
私たちは誰もが文学、芸術を必要とするような時間があるのだ。