閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

FUKAIPRODUCE羽衣『愛死に』

愛死に - FUKAIPRODUCE羽衣 公式サイト

  • 作・演出・作曲:糸井幸之介
  • プロデュース:深井順子
  • 振付:木皮成(DE PAY'S MAN)
  • 照明:松本永(eimasumoto Co.Ltd.)
  • 音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
  • 舞台美術:カミイケタクヤ
  • 出演:深井順子 鯉和鮎美 高橋義和 澤田慎司 キムユス 新部聖子 岡本陽介 浅川千絵 平井寛人(以上、FUKAIPRODUCE羽衣)
  • 伊藤昌子 野上絹代(FAIFAI/三月企画) 山森大輔文学座) 荒木知佳
  • 日髙啓介(FUKAIPRODUCE羽衣)
  • 劇場:東京芸術劇場シアターイース
  • 評価:☆☆☆☆★

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暗闇と沈黙から始まり、暗闇と沈黙で終わる。
糸井幸之介は人生の終着点であり、不可避なものである死から、生を振り返り、見つめる。『愛死に』を見て、死が迫る前に「走馬燈のように」蘇ると言われる回想の時間のために、人は生きているのではないかというようなことを思った。
エロスの愛にこそ生の充実の根源を求め、官能の喜びとみっともなさを執拗に描き出す羽衣の作品は、西洋中世から続く芸術表現の系譜につながるものだ。言葉と歌と身体の表現の構成によって、羽衣はノスタルジックな性的幻想への陶酔にどっぷりと浸らせてくれる。
羽衣の舞台を見ながら、私は孤独でみすぼらしかった自分の過去と再び向き合う。羽衣の舞台は、さえない自分の過去の物語、歴史も、そんなに悪いものではないような気にさせてくれる。そういった優しさに満ちている。
『愛死に』は予想していたより地味な作品だった。しずかで甘美な回想的なシーケンスが続く。見終わったあとにじわじわとさまざまな感情と想い出で満たされるような作品だった。

 

6/14(水)に二回目を見る。

この世に夜があってよかったなあと思った。ダンスの完成度が高い。歌詞や音楽との融合性が高まっている。新部聖子のやけくそのような、このまま破裂してもかまわないような躍動感に満ちた動きがいい。6組の恋人達の亡霊がある夜によみがえり、かつての恋の記憶を再現していく群像劇だ。みっともなくても、こっけいでも、精一杯彼らが愛し合えたのは、愛し合う記憶を蘇らせることができたのは、彼らが生きていくことに本質的に伴う孤独と寂しさを噛みしめていたからだとわかる。寂しいからこそ、空虚だからこそ、人は愛する。孤独と愛は表裏一体だ。それを見つめる若い不良カップルは、その寂しさには気づいていなかった。亡霊のパフォーマンスを見た時、彼らは孤独の存在に気づく、はっきりとではないが。だから急に恐くなる。

冒頭と最後は暗いなか、ゆっくりゆっくり静かに進行していく。特にあの無言のすり足での退場を決断した演出に、糸井さんの覚悟を感じた。