閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

石神井東中学校演劇部『おこんじょうるり』・『ヒミツキチ 〜Our Secret Base〜』

『おこんじょうるり』(10/28)

  • 作:さねとうあきら
  • 脚色:ふじたあさや
  • 指導:一丁田康貴、田代卓(外部指導員)

『ヒミツキチ〜Our Secret Base〜』(10/29)

  • 作:一丁田やすたか
  • 指導:一丁田康貴、田代卓(外部指導員)
  • 会場:練馬区生涯学習センター

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10/28に上演された『おこんじょうるり』は、さねとうあきらの創作民話をふじたあさやが脚色した民話劇。
 
失敗ばかりで村人の信頼を失った上、腰を悪くして寝込んでしまったこのおばあさんのところに子狐が迷い込んでくる。お腹を空かした子狐におばあさんは惜しげもなく家にあった食べ物をあげた。子狐はお礼に聞くとあらゆる病気を治す魔法の浄瑠璃を歌った。おばあさんの腰痛は治り、すぐに動けるようになった。おばあさんは子狐からその浄瑠璃を習うのだが、うまく歌えるようにはならない。子狐はおばあさんの着物のなかに隠れて、乞われるまま、村の病人の家にいって浄瑠璃を歌い、病気を治していった。
 
メタ演劇構造を作り出すいくつかの工夫が、民話劇のファンタジーを強調する効果をもたらしていた。まず舞台装置および俳優の配置が独特だった。高さ20センチ、幅3メートル、奥行き1.5メートルほどの所作台が舞台中央に設置され、背景には高さ2メートルほどの木製屏風があった。演技は所作台を中心としたエリアで行われるが、その両側には10人ほどの役者たちが向き合って座っている。彼らは自分の出番の前になると舞台袖にひっこみ、衣装を身に着けて現れる。そして自分の出番が終わるとまたもとの衣装に戻り所作台の脇に座り、芝居を横で見守っている。きつねのおこんはぬいぐるみで表現されるが、そのぬいぐるみを動かす黒子姿の役者もおこんにシンクロした演技することで、きつねの感情表現を可視化するという演出も面白かった。
中学生俳優の演技はとつとつとしたリズムでぎごちない。ちょっとテンポが悪いのではないかと思って見ていたら、最後のほうにはっと胸を突かれる悲痛で美しい場面が用意されていた。そのクライマックスへのドラマの集約ぶりが素晴らしい。子供の観客も大人の観客も泣いた。素朴でぎこちない芝居が、劇的な効果をもたらすという台本と演出の逆説にやられてしまった。惜しかったのは場面の切替でならされる拍子木がいまひとつ「カーン」とうまく響かなかったこと。あれがカッターナイフですーっと紙を切り裂くようなシャープさで鳴り響くと、芝居がもっと引き締まってたはずだ。原作とは違うハッピーエンドの結末もよかった。このラストの展開にも小さなサプライズある。中学生俳優ならではの可愛らしさも作品のなかでうまく利用されていた。
 
10/29に上演された『ヒミツキチ〜Our Secret Base〜』は演劇部顧問の一丁田先生による創作劇。三人の仲良しの女の子の放課後の「ミヒツキチ」でのかしましくたわいのない会話が最初、延々と続く。演劇的身振りをそぎ落として、表現をもっと洗練させて完成度を上げると、平田オリザの現代口語演劇の女子中学生版に行き着きそうな感じだった。小林聡美もたいまさこ室井滋の三人の自然なお喋りで展開する三谷幸喜のテレビドラマ『やっぱり猫が好き』も連想した。中学生の恋をめぐる騒動で仲良し三人組の友情は一度揺らぐが、結局は「雨降って地固まる」という結末に。予定調和のありふれた展開だが、ディテイルの表現の数々に、作者の一丁田先生が自分の教え子である中学生たちの様子を愛情をもって丁寧に観察していることを感じとることができる。「悪役」の女の子の演技もよかった。ミュージカル・シーンはもうすこし完成度をあげて欲しかったが、中学生たちが心から楽しんで芝居を演じている様子が舞台から伝わってくる気持ちのいい舞台だった。
 
 
表現技術や解釈という点では中学生は当然、プロの演劇にはかなわない。しかし中学演劇が、いわゆるプロの俳優による演劇と比べて面白くないかといえば、必ずしもそうは言えない。思春期前半の、子供の幼さからまさに抜け出そうとする彼らの身体は、演劇的な魅力と可能性を秘めている。その不安定な身体で演じられるからこそ、説得力を持つことができる表現や物語がある。そうした身体でしか表現できない演劇の面白さというのがある。その面白さは彼らの成長とともに確実に失われるものであり、どんなに上手いプロの俳優でも表現しえないものだ。私が面白いと思う中学演劇の作品では、こうした中学演劇特有の身体性の魅力を引き出すような脚本が選ばれ、演出が行われている。