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チンドンのまど舎の8周年公演を見にいった。のまど舎は、紺野しょうけい(チンドン太鼓)と堀込美穂(アコーディオン)によるちんどん屋ユニットだ。この二人はもともとロック、ジャズという洋楽のミュージシャンであり、そちらの活動も続けている。二人がどのような経緯で、バンドからちんどん屋という別ジャンルに足を踏み入れるようになったのかは私は知らない。
私がのまど舎のライブにはじめて行ったのは、のまど舎結成してまもなくの頃だと思う。最初に行ったときは、早稲田のモダンジャズ研究会出身のサックス奏者、渡辺康蔵さんとのセッションで、フリージャズとチンドンのコラボだった。このときは客はごく数名しかいなかったように思う。
これが音楽的に非常に面白くて、渡辺康蔵さんが参加しないときも、のまど舎のライブに通うようになった。のまど舎はライブハウスで、他ジャンルのミュージシャンとセッションして、ユーモラスでありながら前衛音楽的な雰囲気もあるネオ・ちんどんライブをやりつつ、芸能としてのちんどん道の修行も続け、正統派ちんどんとしての活動も深めていったようだ。
三年前の冬になかの芸能劇場であった五年間ののまど舎の集大成とも言えるようなコンサートを聞いてから、その後、スケジュールが合わなくて、のまど舎の公演を聞きにいけてなかった。今回はひさびさののまど舎のライブということになる。
なかの芸能劇場は110席入るらしいが、今回は新型コロナウイルス感染対策ということで、客席は半数に抑えられて55席のみ。のまど舎は高齢者もファンも多いようで、集客にはかなり苦戦していたみたいだが、55席はほぼ埋まっていた。
大道芸やちんどん屋本来の業務である練り歩きでの演奏と違い、劇場での公演となると、チンドンのまど舎のふたりだけでショーを成立させるのは大変だ。今回はのまど舎の二人のほか、クラリネットのイッシー石原、獅子舞とちんどんの豆太郎、カンカラ三線・演歌師の岡大介の3名のゲストを呼び、ショーの構成に変化をつけていた。
オープニングはチンドンのまど舎のふたりの掛合と歌・演奏から始まった。紺野さんの口上が以前よりなめらかに、それっぽくなっていたように思う。話芸で観客を引き込み、パフォーマンスの流れを作っていくのは、ちんどんにとっては重要な要素のはずだ。
二人で二三曲歌ったあと、最初のゲスト、クラリネットのイッシー石原がステージに呼び出される。ベテランちんどん奏者のイッシーをいじった後、イッシーのクラリネットをフィーチャーして三人で数曲演奏。
イッシーが退場したあとは、新しいゲスト、ちんどん喜助豆太郎が呼び出される。豆太郎はまず躍動感あふれる見事な獅子舞を踊る。
豆太郎はまだ40歳ぐらいの若い芸人で、のまど舎と知り合ったのは比較的最近だと言う。のまど舎に獅子舞の依頼が入ったのだが、紺野も掘込も獅子舞は踊れない。それまで交流はなかったが存在は見聞きしていた豆太郎に連絡を取り、彼に獅子舞を踊って貰った。それから付き合いがはじまったそうだ。
獅子舞のあとは、紺野が作曲したちんどん太鼓のデュオを、紺野と豆太郎が演奏した。ちんどん太鼓のみだがこれはグルーヴ感のある演奏で、客席は大いに盛り上がった。豆太郎はクラリネットの演奏も行い、ちんどん版《いとしのエリー》が演奏された。
この後、カンカラ三線・演歌師の岡大介が舞台に呼び出される。カンカラ三線とは、胴が空き缶でできた沖縄の弦楽器で、太平洋戦争後、物資がなかった沖縄で三線の代わりに使われるようになったとのこと。岡大介はこのカンカラ三線の弾き語りで、演歌を歌う。その演歌とは、世相批判の風刺的内容の演説を歌う、初期の演歌スタイルのものだ。岡は新型コロナ禍での政府の無能無策ぶりを風刺する気の利いた詩の演歌を数曲披露し、喝采を得ていた。
岡が演歌を歌っているあいだに、芝居の準備を行っていた。紺野が脚本を書いた清水次郎長ものの大衆演劇風のコントが上演された。20分ほどの小芝居だったが、言葉遊び、チャンバラ、恋、舞踊、笑いなどが取り込まれたよくできたコントだった。芝居のテンポもよく、しっかり稽古していることが見て取れた。
最後は全員での演奏で。
チンドンをベースにした歌、踊り、話芸、芝居などで構成された素晴らしいバラエティ・ショーだった。新型コロナ禍でちんどんも大打撃を受けている。商店街などの営業だけでなく、老人ホームなどでの公演ものきなみ中止になってしまった。
しかしこの苦しい苦しい閉塞的状況だからこそ、やせ我慢して、この苦しさを突き抜けるようなショーをやりたい、という演者の思いが伝わってきた。そしてこの密度とクオリティのエンターテイメントまでもってきたところに、芸人としての心意気を感じ、じんときた。この会場で、このメンバーで、こんなショーが、2000円の木戸銭で興行として成立するわけがない。
能天気な昭和歌謡と大衆演劇風コントに込められた芸人魂に心震える。本当なら超満員の会場で、その芸にかけ声を送りながら、楽しみたかった。そういったはじけたいような気分を抑えながら、ステージを見る。ちんどんのパフォーマンスはカラッと明るいけれど、この状況下ではその明るさはすごく切なくて、胸締め付けられる思いがした。
帰りの電車のなかでショーの余韻を噛みしめた。
公演全編の様子は以下のyoutubeで見ることができる。
なかの芸能小劇場
中野区中野5-68-7スマイル中野2F
18:30開場
19:00開演
チンドンのまど舎
堀込美穂、紺野しょうけい
岡大介
イッシー石原
豆太郎