閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

2022/03/21 平原演劇祭2022第6部 #縦走演劇 田宮虎彦×宮沢賢治 2days

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 平原演劇祭2022第6部は、本来なら準廃墟ホテルとして一部の好事家のあいだで知られている鎌北湖レイクビューホステルに宿泊する一泊二日の日程で行われるはずだった。しかし鎌北湖レイクビューホステルのオーナーは、すでに商売をやる気が失せてしまっているようで、少なくともこの一年は営業している気配がない。平原演劇祭主宰の高野竜が何度も電話でコンタクトを試みて、電話がつながったことはあったようだが、結局、宿泊許可を得ることができなかったようだ。ホテルなのにホテル側が客に宿泊許可を与えるというのも変な話だが。鎌北湖レイクビューホステル宿泊はなくなったものの、予定通り(?)一泊二日で山中ハイキング+三本のリーディング公演が行われることになった。

 私にとって平原演劇祭は非常に優先度が高いのだけど、今回は第一日目の3/20(日)は所用があり参加できなかった。あとで行程を確認すると山中ハイキングを含め、この一泊二日の全プログラムに参加することにこそ、平原演劇祭観客としての勲章であり、大きな充実感を得ることのできる体験だったはずだが、二日目の山中ハイキングは、朝7時出発、歩行距離が12キロと聞いて、参加しなくてよかったと思った。ちなみにこの一泊二日の全行程に参加したのは、高野竜のほか、最初のリーディング演目の出演者であった角智恵子、そして観客のまつだ氏(@zooom_zooom_)とバード 〜旅人〜氏(@windblue1992)の4名だった。

 今回の一泊二日の#縦走演劇については、ひさびさに高野竜がnoteに詳細な告知を記している。

 

note.com

 

 noteの記述によるとプログラムは次のようになっていた。

第一日目(3/20

1. 3/20(日)12:00@ゲストハウス吾野宿
演目「卯の花くたし」(田宮虎彦貧学生シリーズ第1篇)
出演 角智恵子
2. 3/20(日)14:20@東吾野駅出発
鎌北湖までのハイキング

3. 3/20(日)17:00@鎌北湖レイクビューホステル
演目「槍澤市左衞門の最期」(田宮虎彦黒菅シリーズ第6篇)
出演 高野竜

第二日目(3/21)

4. 3/21(月祝)7:00@鎌北湖第二駐車場出発

ギャラリィ&カフェ山猫軒までの山中ハイキング

5. 3/21(月祝)12:30@山猫軒裏山
演目「学者アラムハラッドの見た着物・増補版」(宮沢賢治原作、高野竜加筆)
出演 ひなた

  なんと密度の濃いプログラムだ。私が今回参加したのは5番目の「学者アラムハラッドの見た着物・増補版」だけだ。しかし今の私の体力では全行程参加は全うできなかった可能性もある。全行程参加できなかったのは残念ではあったが、参加しなくてよかったとも思った。今、プログラムを読み返してみるとゲストハウス吾野宿で行われた角智恵子の「卯の花くたし」は見ておきたかった気がした。ウェブで検索すると古民家を改修した建物であるこのゲストハウスが実にいい雰囲気なのだ。角はここに一泊したらしい。しかしこのゲストハウスでリーディング公演をやったあと、電車で移動して、東吾野から鎌北湖までハイキングはきつそうだ。実際にこの「ハイキング」に参加した常連観客の三上氏(@akimikami)のtwitterでのレポートには「高野さんの「ハイキング」は一般人には危険だと言うことがよく分かった」と書かれていた。

 鎌北湖レイクビューホステルの館内には結局入れて貰えなかったようで、このホステルの周囲で高野竜が田宮虎彦「槍澤市左衞門の最期」を朗読したとのこと。17時開始となっていたので、終わった頃には山中は暗闇だったはずだ。「卯の花くたし」を朗読した角はゲストハウス吾野宿に宿泊したらしい。まつだ氏もおそらく周辺の宿に一泊したのだろう。名古屋からやってきたバード 〜旅人〜氏は、新幹線とのパックプランで予約していた日本橋人形町の宿まで戻ったそうだ。これはまた大変な話だ。三上氏は帰宅。高野竜は終演後、宮代町の自宅まで戻ったらしい。翌日早朝、高野は、まつだ氏と角を車で鎌北湖レイクビューまで連れ戻したあと、そこから三つの山を越える12キロの道のりを歩き、越生の山中にあるギャラリィ&カフェ山猫軒までやってきた。なんでわざわざ早朝に起きて、険しい山道を歩いて、次の公演会場まで行く必要があるのか、私にはわからなかったのだが、先ほど告知noteを見ると、田宮虎彦の黒菅藩ものの登場人物であり、「落人」主人公の「山崎剛太郎がただひとり野獣のように逃げていったのはこういう径」だろうと考え、それを追体験するためにこの山中ハイキングを行ったとのこと。前日夜に高野竜による「槍澤市左衞門の最期」のリーディングを聞いた角とまつだ氏には、味わい深い縦走ハイキングとなったに違いない。しかし狂っている。私は付き合わなくて本当によかったと思った。

 5番目のプログラム 3/21(月祝)12:30@山猫軒裏山で上演される「学者アラムハラッドの見た着物・増補版」は、その前の4つのプログラムと比べるとはるかに穏健なものだ。私は9時20分、東武東上線成増発の小川町行き急行に乗って坂戸まで行き、坂戸で越生線に乗り換え、越生駅に向かった。

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 越生の梅林観光のためか、越生線の乗客はかなり多かった。「学者アラムハラッドの見た着物・増補版」の出演者であるひなたが車内にいて、私に気づき会釈した。私はひなたとは少し距離を置いて座った。ひなたは電車のなかでずっと台本を読んでいた。越生駅からギャラリィ&カフェ山猫軒までは歩けば6キロほどの距離がある。越生駅から黒山三滝行きのバスに乗り、麦原という停留所で降りれば、そこから2キロほどの距離にギャラリィ&カフェ山猫軒はある。しかし2キロとはいえこれがけっこうな上り坂でしんどいのだ。2020年12/13にギャラリィ&カフェ山猫軒で平原演劇祭の公演があったのだが、そのときは公演前に立ち寄った黒山三滝で私は転倒して手首を骨折し、痛い手首をかばいながら山猫軒に登るのにかなりつらい思いをした。そのトラウマが残っている。「2キロの上り坂はかなわないなあ。でもどうしようもないな」と覚悟を決めて越生駅西口に出ると、高野竜の奥さんが車で迎えに来てくれていて、その車でギャラリィ&カフェ山猫軒に行くことができた。これにはほっとした。

otium.hateblo.jp

 ギャラリィ&カフェ山猫軒には予定より早く10時30分頃に到着した。開店は11時なので30分ほど店の前で待つ。ここで高野竜の奥さんに電話が入る。療養所に入っている高野の叔母の様態が急変し、救急搬送されることになったという連絡だった。緊急事態である。本来なら終演後に、高野竜妻が車で出演者と高野を運ぶ手はずだったのだが、病院に向かわなくてはならなくなった。高野竜は携帯電波の届かない山中を縦走中で連絡が取れない。上演に使う機材などをその場に残し、高野妻は去って行った。

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 11時に入店。昼飯を取る。古代米野菜カレーを私は食べた。カレーを食べているうちに、鎌北湖レイクビューホステルを早朝に出発し、山中ハイキングで12キロほど歩いてきた角、まつだ氏、高野が到着する。公演の開始時間は12時半なので、それまでは山猫軒でゆったりと過ごし、この後、山中で行われる公演に備えた。

 

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 12時半に予定通り、「学者アラムハラッドの見た着物・増補版」の公演が山猫軒の裏山で始まる。

 

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 この演目は2020年にもひなたによって上演されたものだが、2020年は三幕のうち、一幕目だけの上演だった。宮沢賢治の原作「学者アラムハラドの見た着物」は中途で終わっている未完の作品のようだ。2020年年末に上演したのはこの未完の作品の部分に相当する。高野はこれに宮沢賢治の他の作品をコラージュするなどして、三幕の歩き朗読劇としたらしい。今回の公演告知のnoteの記事にこの加筆についていろいろ書かれているが、「学者アラムハラド」の部分の解説の内容は、正直、私にはよく理解できない。いろいろな地名が書かれている。

 前回同様、ギャラリィ&カフェ山猫軒の裏山をひなたが劇中人物を演じながらひたすら上っていく。それを観客が追っかける。学者アラムハラドは、インドの学校か私塾の先生みたいで、子供たちに古代ギリシャの自然哲学みたいなことを教えている。これが宮沢賢治の原作だ。青空文庫で読むことができる。

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 高野竜は宮沢賢治作品をよく取りあげるが、正直なところ、私には宮沢賢治の作品の面白さというのがよくわからない。前回は山猫軒に到着するまでに疲労困憊の状態で、おまけに手首は痛いし、小雨が降っていて寒いしで、ひなたの語る言葉の内容がほとんど頭に入って来なかった。

 今回はひなたが語る、演じる内容は頭に入ってくる、前回も上演した第一幕の部分については。高野が加筆した第二幕の部分になると、「あれ?話が唐突に変わったなあ」という感じで、その内容が頭に入って来なくなった。ひなたは声色や表情で人物を巧みに演じ分けていた。かなりの急斜面の山道だったが、ひなたはかかとのあるブーツで淡々と登っていく。たいしたもんだなあ、ひなたはきれいだなあと思いながら、彼女を追っかけて登った。

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 上演時間は45分ほどだった。上りは山道だったが、下りは舗装した道路を山猫軒まで戻った。さて、帰りである。終演時間は午後1時半だったが、山猫軒から2キロ下ったところにある麦原のバス停の次のバスは3時45分だと言う。本当なら高野と出演者は、高野妻が運転する車で帰宅するはずだったが、高野妻は高野叔母の救急搬送先に向かったため車がない。ひなつは翌日の早い時間から予定があるそうで早く帰りたそうにしていた。私も歩いて帰るのは疲れるのでやだなあと思っていたので、タクシーを呼ぶことを提案した。結局7名いたうち、竜、ひなた、私、バード氏の4人がタクシーで越生駅に行くことになった。

 朝からの縦走ハイキングで疲労困憊しているはずの角はちょっと迷っていたが、結局歩きを選択。まつだ氏も歩き。下りとはいえ越生駅までは6キロ以上の道のりなのに。ここでタクシーを使ってしまえば平原演劇祭としては中途半端な感じがするというのはわかる。私も今回は往復に車を使って、歩きを回避しているので、若干の消化不良というか、後ろめたさみたいな感じはあった。でも無理はしない。もうけっこうな年で体力が衰えているのだから。

 黒猫軒から越生駅までのタクシー料金は、配車手数料300円込みで3000円だった。