閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

FUKAIPRODUCE羽衣『サロメ vs ヨカナーン』

  • プロデュース:深井順子
  • 脚色・演出・音楽・美術:糸井幸之介
  • 原案:ワイルド作『サロメ』福田恒存
  • 舞台監督:渡辺了((株)ダイ・レクト)
  • 照明:松本永(Fantasista?ish LLC)
  • 音響:佐藤こうじ(Sugar Sound)
  • 振付:木皮成
  • 映像:杉田協士
  • 衣装:吉田健太郎
  • 出演:深井順子、西田夏奈子、鯉和鮎美、大西玲子、伊藤昌子、中林舞、浅川千絵、岡本陽介、日高啓介、代田正彦、高橋義和、澤田慎司、加藤靖久、ゴールド☆ユスリッチ、藤一平枡野浩一
  • 劇場:東京芸術劇場 シアターイースト
  • 上演時間:2時間
  • 評価:☆☆☆☆☆

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場末の雰囲気漂う都市の繁華街での七つの切ない愛の情景が、ミュージカルによって描き出される。この作品の劇評は、劇評サイトワンダーランドが主催する〈劇評を書くセミナー2012/13 東京芸術劇場コース〉に投稿し、以下のサイトに掲載されている。自分としてはかなり力を入れて書いたつもりだ。

片山幹生「群像劇サロメ:リアルで切ない愛の幻影」http://www.wonderlands.jp/seminar2012/mt07/6/

FUKAIPRODUCE羽衣の舞台を見に行くのはこれがはじめてだった。周りにこのカンパニーの熱心のファンが複数いて、前から私好みの作風なので見に行けば絶対に気に入るはずと薦められていたのだけれど、これまでタイミングがうまく合わず、見に行く機会を逃していた。

今回の『サロメ vs ヨカナーン』は私としては例外的に二回見に行っている。まず2/2に見に行ってすっかり魅了されてしまい、その高揚のなかでその二日後の2/4の舞台を予約してしまったのだ。本当なら千秋楽も見に行きたかったぐらい強烈な中毒性のある芝居だった。

2/2の舞台を見た直後、私はツィッターで次のようにつぶやいている。「私は大好きだ。リアルに慎ましくて、呆れるほど大らかであからさまな《愛の賛歌》に酔い痴れ、深い感動を覚えた。特に《ゾロ目の歌》は号泣ものの素晴らしさ!何とも言えぬ幸福感に浸りながら家に帰るところ。」

帰宅しても《ゾロ目の歌》のさびの部分が頭から離れない。それでそのまま二日後のチケットを予約した。二回目に見た舞台は一回目以上に楽しんで見ることができた。

 

ツイッターの私のTLは、やはり私と似たような趣味の人が集まっているためか、『サロメ vs ヨカナーン』については絶賛のツィートで祭の状態になっていた。私もそのなかで舞い上がっていたのだけれど、ワンダーランドの劇評セミナーでは私にとっては意外なことに11本提出された劇評のうちの約半数は否定的な評だった。私にとっては『レ・ミゼラブル』よりよっぽど心にしみる感動的なミュージカルだったのだけれど、一般的に受け入れられるにはまだまだ表現の灰汁が強いようだ。ワンダーランドの劇評セミナーに申し込むような人は、一般の人よりもよっぽど小劇場的な表現に親しんでいる人のはずなので、このグループで半分しか支持されていないとなると、一般的な観客がこの作品を受容するのはもっと厳しいかもしれない。しかしこれ以上、えぐみがなくなってしまうとFUKAIPRODUCE羽衣の持ち味は薄まって、私には物足りないものとなってしまうだろう。

 

『サロメ vs ヨカナーン』で描かれた七つの愛はいずれも切ない。孤独な者同士が寄り添い、慰め合っているような惨めさ、寄る辺なさが漂い、それが何とも言えぬ抒情を生み出している。