閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

戦争と一人の女

戦争と一人の女(2012)

  • 上映時間 98分
  • 製作国 日本
  • 初公開年月 2013/04/27
  • 監督: 井上淳一
  • プロデューサー: 片嶋一貴
  • 統括プロデューサー: 寺脇研
  • 企画: 寺脇研
  • 原作: 坂口安吾
  • 脚本: 荒井晴彦 中野太
  • 撮影: 鍋島淳裕
  • 美術: 磯見俊裕
  • 編集: 蛭田智子
  • 音楽: 青山真治 山田勲生
  • 音響効果: 伊藤進一
  • 照明: 豊見山明長
  • 録音: 臼井勝
  • 出演: 江口のりこ 永瀬正敏 村上淳
  • 映画館:テアトル新宿
  • 評価:☆☆☆★

戦時下、戦後の日々に蔓延していただろう倦怠の空気が、退廃的で歪んだ性愛の風景描写を通して表現されていた。「女」を演じた江口のりこがとてもいい。彼女は性的に奔放で自由であるけれど、不感症の女を演じる。一重まぶたのぼさっとした顔立ちに、淡泊さと淫靡さが共存している。戦時中、この女と愛人の作家はセックスに耽ることで、時代の狂気のなかで正気を保とうとしていた。

坂口安吾の原作にはないエピソードが、原作にある女と作家の物語と対比される。中国から片腕を失った状態で帰還してきた男は、強姦殺人の行為のなかで自分の生を確認していく。

戦時中の日常の荒廃、虚脱という主題の映画としては、クロード・シャブロルの傑作『主婦マリーのしたこと』を連想する。反戦メッセージが露骨すぎるという感想も目にしたが、確かにこうした屈折した表現を通して描かれる戦争こそ、反戦的といえるかもしれない。登場人物が作中で天皇批判をやってるかどうかなんてどうでもいいことだ。片腕を戦争で失った男のエピソードについては、原作にはないこともあり、批判も多いようだ。私は村上淳演じる陽光の森のなかで起こる強姦劇の無慈悲さを、虚無のなかを自由に生きる「女」と対比することで、戦争中の明日が知れない絶望の刹那を生きる感覚が強調されていてよかったと思う。

坂口安吾の小説を久々に読み返してみた。やはり面白い。高校時代に私は坂口安吾に夢中になりほぼ全作品を読んでいる。なんであの頃、安吾にあんなに惹かれたのだろう。また安吾の作品を読み返してみたくなった。