日時:2024/12/22(日)14:00-17:00
会場:目黒区烏森住区センター 調理室
1000円+投銭
【演目】
- 「Desire Path」(高野)
- 「カンナの花」(アンジー)
【料理】
- 前菜:コールラビと腐竹の豆板醤和え
- メイン:麻辣味麻辣豆腐辛ラミョン
- デザート;胡麻ハルヴァとジャスミン茶
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平原演劇祭の#忘年会演劇に行ってきた。会場は、中目黒駅から徒歩15分ほどのところにある目黒区烏森住区センター 調理室である。平原演劇祭で調理系演劇のときはここが会場になる。
平原演劇祭では飯が出ることは多いが、#忘年会演劇と称したのは今回が初めてだったように思う。ということで私も忘年会に出る感覚で会場に向かった。参加者が持ち寄りでおつまみなんかを持ち寄るのがいいのかなという気がした。今回は調理時間と食事時間がちゃんと設定される。食後のデザートがあったほうがいいかなと思い、クリスマス前ということで、中目黒駅近くのBioスーパーで円形のいちごタルトケーキを購入し、持って行った。
料理の仕込みは13時から、食事開始は14時ごろから、演劇開始は15時頃からと告知されていた。13時過ぎに会場に到着。食事のメニューは竜さんが考えたものであり、出される食事の完成形を知っているのは竜さんだけだ。竜さんの指示で、ゆるゆると食事の準備を始める。この数ヶ月、高野竜さんの体調はそれ以前に比べると確実に回復していて、料理の完成は予定より40分以上遅れてしまったが、14時40分ごろに予告された全品が完成した。2022/07/17、まだ新型コロナが流行っていたころに、同じ会場でやった#カレー市民では、竜さんが調理開始前に昏睡状態になってしまい、急遽、出演者でカレーを作ったことを思い出した。さいわい材料はそろっていたので、企画立案者の竜さんの指示がなくてもなんとかできたのだが。
tium.hateblo.jp
今日の料理は、豆腐屋がらみの作品が上演されるということで、豆腐料理づくしだった。前菜はサラダ二品だった。一品はコールラビと腐竹の豆板醤和え。コールラビは、ザーサイと同じ種類の野菜とのこと。カリフラワーも入っていた。サラダのもう一品は、赤カブ、水菜、干し豆腐にわさびマヨネーズをからめたものだった。大皿にけっこう大量のサラダが出来たけれど、10人ほどで全部食べきった。
メイン料理は、麻辣味麻辣豆腐辛ラミョン。「ラミョン」とは韓国語で「ラーメン」のことらしい。辛ラーメン袋麺をゆでて、それにしっかりと辛い麻婆豆腐をかけて食べる。
#忘年会演劇 ということで平原演劇祭の観客常連が集まるのかなと思ったら、常連組は私とぼのぼのさんだけだったのはちょっと意外ではあった。あんじー目当てのファンが数名来ていた。そのなかにはふだんの平原演劇祭公演ではまず見かけないような業界人っぽいのりの人とその若い彼女(?)っぽい人が混じっていて、観客ながら独特のオーラを発していた。最終的には演者と観客あわせて12名だった。
サラダ2品と主菜はかなりのボリュームがあってお腹いっぱいになった。平原演劇祭の飯は常に美味しいので、おかわりをする人が多く、用意された料理はほぼ完全になくなった。氷水で出したジャスミンティーも出た。
食事タイムが終わった15時過ぎから、本公演が始まる。公演が始まると、食事中のわやわやした空気が、すぐに公演を聞くという雰囲気になった。最初は高野竜さんによる「Desire Path」。新作の朗読だ。このところ竜さんは千葉県を歩き回っていたようだが、その取材から生まれた作品だと言っていたような気がする。Desire Pathのpathは、「道」という説明。脇道を意味するBypass「バイパス」という語があるが、bypathという単語もあり、こちらは「私道; わき道, 間道(byway); 裏話.」という意味になる。それではdesire pathとは何だ?「欲望の道」? これについても竜さんがなんか説明していたが、その内容は忘れてしまった。
最初はマテ貝の話から始まった。マテ貝は細長い筒状だが、このマテ貝の右左がどうのこうのという話から、茨城県古河市を流れる西仁連川(にしにれがわ)にかかる橋の話になった。白板にはその地形図が書かれている。google mapで調べて見ると、白板に書かれた地図の場所は確かにあった。ここで西仁連川は、東仁連川と西仁連川の二股に分かれる。
https://maps.app.goo.gl/WQ817roSeHuUuuvq8
この二股部分で東仁連川にかかる橋が、マテ貝の形状に由来する(このあたり、私の理解が間違っている可能性がある)右左川橋であり、すでに忘れられたこの橋の名称の由来を地誌・歴史から明らかにするという平原演劇祭の高野竜ならではの、川をめぐる地理演劇だった。右左橋で「マテ橋」と読むそうだ。今、この記事を書きながらgoogle mapでこの川の周辺の写真を見てみた。特に美しい景観というわけでもない、田舎にある平凡な小川だ。この川にかかる橋の名前が竜さんがいうように右左川橋なのかもgoogle mapの写真で確認してみた。
違うじゃないか!? 「南総梶田橋」となっている。右左川橋という名称は竜さんの創作か、あるいはかつては本当にそう呼ばれていたのか。一通り語ったあとで、付記、付付記とこの橋の名称の根拠となる事柄を説明していく。なんでも『南総里見八犬伝』のきわめて重要な箇所にこの左右川という地名が登場するとのことだ。最後に『南総里見八犬伝』の該当箇所の抜粋を朗読するのだが、それが長い。長すぎる。15分ぐらい続く。確かに「左右」なんとかという地名は出てくるのは聞こえてきたが、内容はほぼ頭に入らなかった。「左右」という名称の由来が本当かどうかはよくわからないが、よく歩き、よく探し、よく作り上げたものだなと思う。散文的な風景のなかにある忘れられた土地の歴史を掘り起こす、いかにも高野竜の虚実入り交じる地誌演劇だった。上演時間は45分ほどだった。
2本目はあんじーによる「カンナの花」。これは長谷川伸の『一本刀土表入』と竜さんの少年時代の体験に基づくという豆腐屋の横にあった花壇のエピソードを重ねた作品だった。踏み荒らされた花壇に咲いていたのがカンナの花だった、と思うのだが、竜さんのオリジナルのエピソードの内容についてはすでに曖昧になってしまった。しっかり聞いていたはずなのに。
約2週間前にシアター会で劇団若獅子による気迫あふれる公演『一本刀土俵入』を鑑賞したばかりであるため、あんじーによる一人語り版『一本刀』は、それと比較しながら観ることとなった。あんじーのお蔦、本当によかった。語りと芝居に見入ってしまった。あんじーは『一本刀土俵入』 の舞台は見たことがないそうだ。大学の授業で映像で一回見たことがあるだけという。もともと文学少女で、小説読みのあんじーは、テクストの丁寧な読解によって、説得力のあるお蔦を再現していた。あんじーはその特異な存在感自体が魅力的であるが、芝居は案外不器用で、何をやっても「あんじー」になってしまう一本調子になってしまうところがある。その存在感は面白いけれど、はじまると「ああ、やはりこの感じか」という。今回の『一本刀」のお蔦もその一本調子から抜け出たわけではないのだけど、その情感の入れ方がじわっとよかった。見とれてしまった。あんじーはやっぱりいいなあと。
終演後はデザートのいちごタルトケーキを12等分して全員で食べた。みんなで一緒に芝居を見て、食事も一緒に取るというのは、共同体の祭儀のようで、重要で楽しいことだなと思う。最後にケーキを食べて、クリスマスっぽい気分に少しなった。豆腐の日ということで高野さんがハルヴァという豆腐のような見た目のトルコのお菓子もデザートとして用意してくれていた。もさもさとした食感だが、ごまの風味が強いお菓子だ。甘みはそれほど強くない。蜂蜜やメープルシロップをかけるとより食べやすくなる。
なごやかでおだやかで親密な、小学校のころやっていた「お楽しみ会」のような演劇公演だ。平原演劇祭には昭和の頃の懐かしい学校文化の延長線上にあるような感じもある。
それにしてもあのいかにも業界人風の、物怖じする様子なくなれなれしく入り込みながら、冷ややかにこのイベントを眺めていたような人物は何者だったのか? あんじーだけに関心があったことは確かだが。その業界人風男の彼女なのかどうかわかならない若い女性も謎だったが。飯を食べる時間に、男は「ファシズムってのはね」と軽い口調で女の子に解説していた。