閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

主婦マリーがしたこと(1988) UNE AFFAIRE DE FEMMES

私がこれまでに見たシャブロル=ユペールのコンビの作品のなかでは最も好きな作品かもしれない。ドイツ占領下のフランス、ノルマンディ地方の町が舞台。堕胎が難しかったこの時代のフランスで、非合法のにわか「堕胎医」を行っていった主婦の話。どんよりと重苦しい戦時下の地方都市で息詰まる思いで生きてきたこの主婦は、たまたま行った堕胎によって、他人から感謝され、報酬を得ることに、生き甲斐を見出す。堕胎によって報酬を得、陰気なぼろアパートから明るい瀟洒なアパルトマンに住居を移す。アパートの部屋のオーナーとなり、その部屋を娼婦に貸す。帰還兵の夫をないがしろにし、若い恋人との恋を楽しむ。戦争は彼女を零落させると同時に解放した。この解放の喜びに女は酔いしれる。ユペール演じる「主婦」の軽率で浅ましい浮かれ方の表現が素晴らしい。戦争のもたらした退廃的な気分が見事に描き出された作品だった。クリーム色のヴェールが薄くかかったかのような、シャブロルの映画ならでは映像美も魅力的だ。