閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

2023/09/18 復活!演芸祭@東村山カフェブレッソン

  • 出演:お芝居デリバリーまりまり、出張お芝居ぷちまり、アイリッシュ・ラディッシュ
  • 場所:カフェブレッソン(東村山市久米川町4-34-15)
    日時:9月18日(月曜祝日)13時-14時40分
  • 演目:アイルランド・トラッド音楽、『北風と太陽』、『パパ、お月様取って!』、『ハーメルンの笛吹き隊』、『オレオレ詐欺撲滅演劇』

お芝居デリバリーまりまりを主宰する萩原ほたかとは知り合って10年ぐらいで、私が大衆演劇を見るようになったのは彼女のツィートがきっかけだった。彼女は当時、一見劇団の熱狂的な伝道師で、twitterでとかくいろんな人に、手当たり次第というかんじで、この劇団の公演を勧め、引き込もうとしていた。ほたかはかつては、演知る人ぞ知る著名な劇団のメンバーだった。その劇団を退団したあとは色々と紆余曲折を経たようだが、ここしばらくは亀山空という若者と「お芝居デリバリーまりまり」というユニットでさまざまな場所で演劇活動を行っている。
私は彼女のパートナーである亀山空の戯曲の公演には、これまで何回か見に行ったことはあったけれど、二人でやる「お芝居デリバリーまりまり」の公演を見に行ったことはなかった(ような気がする)。人付き合いや他者との距離のとりかたという点では極端といっていいほど不器用であるが、そうであるがゆえの純粋さや真摯さを持っているように思えるこの二人の演劇活動には、前から興味があっていつかその上演に立ち会いたいと思っていたのだが、昨日ようやくその機会を得た。

今回の公演は、お芝居デリバリーまりまりのほか、まりまりに触発された浜松の静岡文化芸術大学の学生たちによる移動劇ユニット《出張お芝居ぷちまり》、そしてこれも大学生ぐらいの若者たちによるアイルランド音楽のバンド、アイリッシュ・ラディッシュが共演し、東村山市のカフェで開催された。1時間40分ほどの時間に上演されたのは子供向けの短い芝居が三本、亀井空が書いた大人向けの短編戯曲『オレオレ詐欺撲滅演劇』で、これに加えアイリッシュ・ラビッシュによるミニライブがあった

観客は15名ほどで、その多くは若いお母さんと小さな子供たちだった。東村山駅から15分ほど歩いた場所にあるカフェでの、親密でアットホームな雰囲気のたのしい時間を過ごすことができた。

子供向け芝居はいずれも5分程度の短いもの。出張お芝居ぷちまりの二人はまだ学生というが、その動きはのびやかで美しく、小さな子供たちはすぐに彼女たちの作り出す世界に引き込まれていくのが見て取れた。アイリッシュ・ラビッシュを「笛吹き隊」とした『ハーメルンの笛吹き隊』は、会場にいる子供たちやその母親たちもその劇世界に引き込む楽しい演出があった。

亀山空の短編戯曲『オレオレ詐欺撲滅演劇』は、その余興じみたタイトルとは裏腹に、ユーモラスなやりとりのなかに、自分の存在のありかたへのとまどいと真面目な問いかけが浮かび上がる、亀山空を知っている人ならいかにも彼らしいと思えるような繊細で美しい作品だった。おちゃらけたタイトルで損をしているような感じもするけれど、見終わってみるとやはりこのタイトルがふさわしいような気もしてくる。

アイリッシュ・トラッドを演奏する若者たちは明朗で爽やかで、かつ今時の若者らしい繊細さも感じさせる爽やかな人たちだった。演奏も軽やかで、彼ら自身が音楽を楽しんでいることがよく伝わってきた。その雰囲気は観客の小さな子供たちにも伝わっているようにみえた。上演の最後は、彼らの演奏に会わせて大人も子供も踊った。

ささやかで、親密で、そして優しさに満ちた牧歌的な時間だった。互いへの慈しみが感じられるような心安らぐ時間であり、あるいは弱くて優しい人たちが世の中の荒々しさから一時の間避難するための小さな聖域のような公演だった。

萩原ほたかにとって、演劇表現とは、ギラギラとした自己顕示の場ではない。それはあまりに傷つきやすい自分を守るためのアジールだ。そして彼女は自分と同じように傷つきやすい人たちとこの小さなユートピアを共有しようとしている。彼女は演劇を通じて安住の地にたどり着いた。そして自分がたどり着いた安住の地は、彼女の周りにいる彼女と同じように不器用で繊細な人たちにも捧げられている。こんな場所を作り出すことができた彼女は演劇人としてなんて幸せな人なのだろう!そんなことを思った公演だった。