出演:のあんじー(栗栖のあ&アンジー)@noangie0804
日時:2023/9/17(日)13時〜14時40分
場所:新世界まちなか案内所(スタート地点)〜SPACE★HOUSEのビル屋上(ゴール地点)
料金:2000円+投げ銭
4年前から活動している20代前半の同い年の女性二人のユニット、のあんじーの公演は2019年8月の第2回公演から追いかけているのだが、とりわけ昨年の「路地裏の舞台にようこそ2022」での移動劇『夜を旅した女』が私にとってはあまりにも衝撃的な演劇体験で、私は一気に彼女たちの演劇活動に引き込まれてしまった。釜ヶ崎を舞台とする黒岩重吾の初期風俗推理小説をベースとする移動劇『夜を旅した女』は、2022年に私が見た演劇作品のなかで圧倒的に印象的なもので、この公演についてはブログにレポートを記している。
平原演劇祭の高野竜の影響のもと、非劇場空間での上演活動をはじめたのあんじーだが、文学作品と個人的体験をベースにした作品を野外移動劇で行う彼女たちは、キッチュで粗っぽくいエネルギーに満ちた独自のスタイルを確立しつつある。
今年の5月28日に六本木の喫茶「文喫」が、六本木アートナイトの深夜開催に合わせて行ったイベントで上演された、移動徘徊劇 #四象演劇『踊羅木偶』は、カフカの短編小説で言及されるなぞの生物「オドラテク」を探し求め、深夜1時から2時半にかけて六本木の街を疾走する痛快な野外移動演劇だった。これは2月に激しい失恋をした栗栖のあとこの3月に美大を卒業し、某大企業で働きはじめたアンジーが抱える苦しみと違和感が無防備に表明された優れた私演劇でもあった。スカした夜の六本木の町に、強引に割り込んで、場所を切り拓き、自分たちの居場所にしてしまう痛快な演劇だったが、この作品については時間がなくてレポートを残せていない。
昨年の『夜を旅した女』に引き続き、#路地裏の舞台にようこそ2023でも、のあんじーは野外劇の上演を行った。昨年は国道43号線、JR環状線の南側の通称「釜ヶ崎」一帯が野外移動劇の舞台となったが、今回の移動劇『変身』では釜ヶ崎から環状線を挟んで向こう側、新世界の繁華街の真ん中にある《新世界まちなか案内所》が出発点となった。彼女たちの出で立ちの姿は写真のとおり。栗栖のあはおばQのような唇メイクに黒帽子に黒上下の男装。アンジーは髪の毛を突っ立ていて、衣装は銀の「宇宙人」風(?)。
開演前に熱心なクリスチャンである栗栖のあが、この扮装で観客に生き生きと聖書の話をしている。
五月の六本木深夜徘徊劇ではカフカの短編小説「家のあるじとして気になること』をベースとしていたが、今回はカフカの『変身』がとりあげられていた。カフカ『変身』のおそらく全編が街中を移動しながら読み上げられた。『変身』に加え、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』も上演に組み込まれていた。この2作品のからみには当然何らかの意図があるはずなのだが、今のところ私にはそれがどういうからみなのかわからない。上演時間は1時間40分ほどだったが、晴天で33度の高温のなかを歩き回るのは体力的にかなりしんどかった。ずっと喋りっぱなしののあんじーの二人も、若いとはいえ相当きつかったようで、途中ポカリスエットで水分を補給しながらの炎天下移動演劇となった。暑さと人混みゆえか、幸い、昨年の『夜を旅した女』や5月の六本木での『踊羅木偶』のように全力疾走する場面がなかったのが助かった。失踪していたら私は倒れていたかもしれない。
観客は途中増減があったが、おおむね20名程度。#路地裏の舞台にようこそのスタッフ数名が上演中は常につきそい、一般の通行者たちの通路の確保などを行っていた。
《新世界まちなか案内所》からはじまり、最初のうちは新世界の通天閣近辺を回った。このあたりは繁華街で人が多い。大声でカフカのテクストを読みながら、徘徊する異装の若い女性二人とそれに付き従う20名ほどの集団は、通りがかりの人たちの注目をそれなりに集めはしたが、毒々しい新世界の賑わいのなかではあまり違和感がなく、意外に風景の溶け込んでしまったような感じもあった。
セルフ祭が開催中だった新世界市場のなかものあんじー移動野外劇は突っ切っていったが、セルフ祭の参加者自体がきてれつな格好をしている人ばかりなので、のあんじーの二人はそれにまぎれてしまった感があった。今回は炎天下での体力的にかなり過酷な行軍演劇ではあり、観光客で一杯の新世界の繁華街に切り込むという冒険はあったが、率直に述べれば、カフカの『変身』というテクストの選定、上演のなかで立ち寄った場所の意外性、そして街中演劇の「絵」としての面白さは、釜ヶ崎一帯を歩き回った昨年の『夜を旅した女』と比べると弱い。町自体のエネルギーが強烈で、のあんじーの二人が町の日常風景をむりやり切り崩していくというハプニング性が弱まっていた。新世界という場のどぎつさのなかでは、のあんじーの特異性が発揮し切れていないような気が私にはした
カフカの「変身」を選択した理由はあるはずだが、今回の上演の場やのあんじーとこのテクストの関わりというのが見えにくかったというのも、今回の公演に今ひとつ私が乗れなかった理由だ。さらに暑さによる体力消耗が大きかったというのもあるだろう。
環状線の線路と国道43号線を超え、賑わいのない釜ヶ崎の散文的な風景のなかでのほうがのあんじーの芝居が冴えていた。
空き地でのミュージカル場面、そしてハーメルンの笛吹きさながら、リコーダーを演奏しながら20名ほどの集団を狭い釜ヶ崎の路地裏へと先導していくルートの選択が秀逸だった。
エンディングは#路地裏の舞台にようこそ2023の会場のひとつであるSPACE★HOUSEのビルの屋上だった。この屋上からは釜ヶ崎一帯の風景を見下ろすことができる。エンディングでは赤い風船が空に向かって放たれた。地上の釜ヶ崎の風景と青空のなかに浮かぶ赤い風船の絵は詩的で美しかったが、のあんじー野外劇のエンディングとしては若干甘すぎるような気も私にはした。