閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

不撓不屈

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国税庁という国家権力の横暴に対峙する一税理士の闘争とそれを支える家族の物語.昭和30年代から40年代にかけて実際にあった裁判事件が題材となっている.国税庁にせよ,税理士にせよ,今の僕の日常とは全く関わりがない世界なのだけれど,ひいきの役者である梅雀出演作でかつblog等の評判もよいので,帰宅途中に観に行くことにした.
ナレーション(江守徹)の入れ方や音楽の使い方がレトロな古臭さで,滝田栄の顔演技も実に暑苦しい.時代設定が高度成長期直前の地方都市ということで画面の雰囲気も古びた感じ.この古くさい雰囲気がこのドラマにはうまくはまっていたように思う.滝田栄演じる主人公の税理士は,ちょっとありえないと思えるほど強靱な意志と正義感の持ち主で,国税庁官僚の卑劣でえげつない妨害にひたすら耐える.この逆境での家族の絆が強調される.善悪二項対立が明瞭すぎるきらいはあるけれども,ドラマとしての緊張感はずっと維持された.最終的には不条理は覆されるのだけれども,主人公の超人的ともいえる精神の強靱さだけでなく,長期間にわたった官僚との裁判闘争の中で個人がぼろぼろになっていく様もしっかりと描かれている.たまたまこの映画の題材となった人は最後には救われたけれども,組織的暴力に徹底的になぶられ屈辱的に破滅してしまう例のほうが実際には多いのだろうなぁと想像する.映画の「いじめ」シーンで感じたが,ある程度権力のある組織が本気で個人をいたぶると本当に手も足も出ないといった感じまで追い込まれてしまうように思う.そんな中で個人の尊厳を維持するのにはすさまじい意志の力が必要だ.今日の税理士の姿には,先日見たイプセンの舞台,『民衆の敵』の主人公の姿が重なる.
後半若干テンポがおちだれる.

禅宗の坊さんの役柄だけが中途半端に浮いていた感じあり.ああいった局面では坊さんは役にたたんだろ,さすがに.
悪役の官僚たちの振る舞いの傲慢さは実に憎々しくて,その権力をかさにきたいじめぶりには見ているこちらの心臓が締め付けられる重い.映画の「社会もの」にはああいった自分の社会的立場を笠に着てマンガ的に威張り散らす役柄がよく出てくるけれども,現実の社会にはああいった下品な振る舞いが実際にけっこうあるのだろうか? 大学内では教授-助手,指導学生といった権力関係をたてに,幼児的にいばりちらす人間はけっこういるのだけれども.

どっしりとした見応えの秀作.ユナイテッド・シネマとしまえんでは小さい部屋で,平日夜の回だったが,30人ほどの観客がいた.