閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

十二月大歌舞伎 夜の部

http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2009/12/post_51.html

  • 双蝶々曲輪日記 引窓(ひきまど)
    • 南与兵衛後に南方十次兵衛(三津五郎)、濡髪長五郎(橋之助)、母お幸(右之助)、お早(扇雀
    • 評価:☆☆☆★
  • 御名残押絵交張(おなごりおしえのはりまぜ)雪傾城(ゆきけいせい)
    • 傾城(芝翫)、役者栄之丞(勘太郎)、芝居茶屋娘お久(七之助)
    • 評価:☆☆☆★
  • 野田版 鼠小僧(のだばんねずみこぞう)

『引窓』はいい話なのだけれど地味だ。一時間強の上演時間だけれど、ゆったりとした展開の単調さに少々退屈する。たるいリズムが心地よいとも言えるのだけれど。与兵衛義母役の右之助と女房役の扇雀のやりとりがほんわかした柔らかい感じでよかった。『雪傾城』は芝翫とその孫六人が雪景色のなか華やかに踊る。
夜の部の主菜は『野田版鼠小僧』。野田秀樹がこれまでに書いた三本の歌舞伎作品のなかでは私はこの作品が一番好きだ。人に金に恵むと死んでしまうほどお金が大好きな棺桶屋の三太が運命のいたずらで、義賊鼠小僧となってしまう。スピード感ある展開に、キレのいいギャグを乗せる。歌舞伎のケレンをどん欲に取り入れた優れたエンターテイメント。主役の勘三郎はもとより、のりのりで悪女を演じる福助、権力悪の狡猾さと深さを体現した三津五郎など、役者がそれぞれ自分の役柄を生き生きと演じているような感じがした。
終盤まで豊富なギャグで笑わせながら、終盤に一転泣かせに入る。わかってはいるけれど強引にひきこまれて泣いてしまった。天から降ってくる金を両手のひらを上に向けて受けとめようと待ち構える、子供の愚直で間抜けなポーズがたまらない。すみずみまで神経の行き届いた素晴らしい脚本だと思う。