閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

喫煙者のユーウツ.タバコをめぐる冒言

シガー・ライターズ・クラブ(角川書店,2004年)
喫煙者のユーウツ―煙草をめぐる冒言
評価:☆☆☆

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タバコをやめて十か月がたった.健康増進法という奇妙な法が成立して以来,日本の喫煙状況も急激に先鋭化した感もあるので,いいタイミングでやめることができたとは思う.ただしタバコと健康の相関関係についてはぼくは依然懐疑的であり,非喫煙者となった今でも嫌煙運動にはヒステリックで,非理性的であり,独善的な側面があるように思い,共感できない.そもそも心筋梗塞で入院という事態がなければ喫煙習慣を立ちきることは僕には不可能だったはずだ.フランスでの主治医が喫煙については非常に厳しい人だったため,主治医の診察で喫煙を続けていると伝えることに大きなプレッシャーを感じ,それが断煙につながた.喫煙は心筋梗塞などの虚血性疾患の要因の一つとされ,喫煙者が発作を再発する可能性は,非喫煙者の約二倍と言われている.この統計がどれほどの意味を持つのか僕にははかりかねるのだが,誕生時をのぞけば生まれて初めての入院,それも心筋梗塞という生死に関わる病での入院ということで,僕は大きく動揺したし,退院後の体調もずっと思わしくなかった.「二度目の心筋梗塞の発作がおこったら,自分はかなりの高い確率で死んでしまうに違いない」という恐怖感に深くとらわれていた.死がこれまでにないほどリアルなものとして自分の中でイメージされるようになったのだ.「死」の恐怖と引き換えに,僕はなんとか十五年間続いた喫煙習慣と手を切ることができた.
喫煙習慣を立ちきるのは僕にとって本当に大変な苦行だった.「タバコをやめよう」と決意しても,ひと月の間は二日禁煙しては再開,のようなことを繰り返していた.タバコのことばかりが頭にあり,ひどい便秘に悩まされ,眠気が始終襲いかかり.今に至る腸の不調の淵源は実は禁煙ではないかと僕は疑っているほどだ.
非喫煙者となった今も心情的には喫煙者の側にある.嫌煙者の傲慢を批判・嘲笑するこの本の内容は僕にとってはまだ痛快な部分が多い.それでももう向こう側(喫煙者側)には戻ることはできないのだなぁと思うと寂しい気分になる.あの禁断症状がぬけるまでのつらさを思うと,もう二度と禁煙できるようには思えないのだ.