篠田節子(集英社文庫,1997年)
ISBN:4087487040
評価:☆☆☆★
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恋愛のグロテスクな側面を主題とする六編の小説を収める短編集.
最初に読んだ小説が『インコは戻ってきたか』という骨太なリアリズムの小説であったため,篠田節子の資質を誤解していたようだ.SFや幻想譚にこそこの作家の本領はあるのかもしれない.それが堅実な筆力と結びついたときに,何とも消化不良のような奇妙な後味を残す小説を生みだす.幻想趣味とリアリズムがうまくはまったときには,スケールの大きな傑作が生まれるのかもしれない.文章と構成は巧みだがどこかいつも薄っぺらさがある乃南アサとは対照的に,篠田節子の小説の描写にはどこか底知れぬ気味の悪さがあるような感じ.
この短編集の六編の中では,叙情的な余韻を残して終わる「秋月」が一番好みだった.作者がこの短編集の中では「長調のヴィヴァーチェ」と評する最後の作品,「内助」は,司法浪人の末,結局は人生から完全に降りてしまう決断をする夫の描写が,現在妻のヒモのような生活をしすぎる僕には,あまりに生々しくて読むのがつらい.どこが「長調のヴィヴァーチェ」じゃ.最後の作品の恐ろしくリアルな若隠居生活の描写が,僕にとっては一番怖かった.