- 日時:2024/05/19(日)14時開場、18時半閉場
- 料金:2000円+投げ銭
- 出演:栗栖のあ、青木祥子、夏水
- 会場:石神井公園駅 Space Bahara
---------------
高野竜主催の平原演劇祭のスピンオフ、「みんなのへいげん」の公演、会場は西武池袋線石神井公園駅の近くの商業ビルの最上階にあるレンタルスペースであった。企画及び出演は平原演劇祭上演の三人の女優、栗栖のあ、青木祥子、夏水の三名で、高野竜は戯曲を提供しただけでこの公演の企画や演出には関わっていないようだ。
twitter上に掲示された「ちらし」では14時開場となっていた。チラシには「開演」時間を記すのが普通だと思うのだが、開演時間の記載はない。14時開演だと思い込んでいた私は13時半過ぎに会場に着くと、「まだ準備中です。開場は14時からですから」と追い出されてしまった。会場となるレンタルスペースは、商業ビルの5階にあった。入り口は鉄扉で、通常の居住者用のマンションと同様のものだ。屋上階に上る階段のところで会場まで時間を潰すことにする。14時の開場前に私以外に三人のおっさん観客が会場にやってきた。
14時になり会場に入ったが、準備はまだ終わってなかった。観客は平原演劇祭の常連観客おっさん4名と高野夫妻の計6名だった。
レンタルスペースの広さは30平米くらいあるだろうか。かなり広々としていて、天井も高い。眺めのいいテラスもある。まだ新しくてきれいだ。
広いキッチン付きで、四人用のテーブルが四台、そしてレンタルスペースのウェブページを見ると椅子が30脚あるらしい。石神井公園駅というロケーションが少々ネックであるが、この広さ、この設備、このきれいさで、丸一日借りて2万円は安いと思った。
高野竜の旧作と新作の上演があるらしいが、観客が入場後もテーブルのセッティングが続けられている。上演そのものよりも、「誕生会」というイベントの枠組みがどうやらメインプログラムであることに気づく。平原演劇祭主宰の高野竜の誕生日は数日前だったが、今日の出演者三名もみな5月生まれということで、今日のイベントが企画されたのだ。誕生日プレゼントっぽいものを持ってこようかと行く前にちらっと思ったのだが、私は結局何も持って来なかった。おっさん観客のうちの一人はお酒を持ってきていた。えらい。
出演者三名はメイドカフェのコスプレをしていた。平原演劇祭では飯が出ることが度々あるが、軽いスナック程度のものが多い。今回の飯はボリュームたっぷりで、本格的な飯である。豚汁、ハンバーグ、サラダ、鯛飯など、いずれも出演者三名がこのレンタルスペースのキッチンで作ったものらしい。大量のポテトチップスも。
食卓の準備が終わったあと、「本番」が始まった。まずメイド・コスプレ三人娘によるアニメの主題歌に合わせたダンス。これはかなり刺激的だった。。すごくはじけていて楽しそうに踊っている三人の可愛さの圧力が強烈だった。「これはすごいものを私は見てしまっているのでは」。私は言葉を失ってしまった。
オープニングのダンスのあとは、一本目の演目がはじまった。チラシ上では「オバハンクラブの無法者」となっていたが、実際に上演・朗読されたのは椋鳩十の「大造じいさんとガン」だったようだ。Wikipediaに概要がある。聞いているときに椋鳩十っぽい話だなと思っていたのだが、終演後に観客のひとりから「ああ、なつかしいですね、この話」という指摘があった。いくつかの小学生の国語教科書に掲載されていたそうだが、私は記憶がない。ご飯を食べながら見る。
一本目の上演が終わると休憩。進行はゆるゆるだ。カラオケ大会があったのはこの幕間だったと思う。人前で歌うのは照れくさくて、最初に誰が歌うのかは譲り合いになった。栗栖のあが最初にAmazing Graceを歌った。それに引き続き、夏水と青木が歌う。観客の一人も歌った。私は歌おうかどうしようか迷ったが、結局歌わず。二本目の演目『さすらいの姫君』の上演はカラオケの後だったように思う。『さすらいの姫君』は、高野によると2009年に上演された旧作だと言う。しかしその冒頭部で語られる、コノシロ(コハダのこと)を焼いた匂いが人を火葬した匂いと似ている、というエピソードは私は記憶があった。私が平原演劇祭に通うようになったのは2010年からだが、そのころに平原演劇祭で宮代町のコノシロ(身代)神社の縁起に関わる高野さんの芝居を見ているのだ。コノシロの伝説は日本各地にあるという話もそのときに高野さんの語りから聞いたことを思い出した。そのときの上演演目が今日、コスプレ三人娘によって上演された「さすらいの姫君」という題名だったかどうかは定かではない。
伝説の概要については以下のウェブページに記されていた。
「さすらいの姫君」は、コノシロのおかげで命拾いした姫が時空をさすらう話だ(と思う)。平原演劇祭どうよう、「みんなのへいげん」も演じられる、語られる内容よりも、演じられる状況と空間、俳優の存在のほうに気を取られてしまって、テクストの中身はうやむやになってしまう。
会場の外の風景、聞こえてくる飛行機の音、西武池袋線の電車の走る音を背景に、メイドのコスプレの三人娘の口から発せられる古語の台詞が重なっていく。俳優の身体と声、空間のコンビネーションが作り出す空気のなかに、鯛飯を食べながら、身を委ねる不思議で心地良い時間。平原演劇祭、みんなのへいげんは、民俗学的でアヴァンギャルドだ。
二本目の演目が終わったあとはぐだぐだとゆるい時間が過ぎていった。生誕祭なのでケーキも食べた。三人娘のダンスで公演は締めくくられた。
観客数が少なかったこともあり、食べ物が大量に残った。残った食べ物は、ラップで包んだり、ビニール袋に入れて持ち帰ることに。私は豚汁を持ち帰った。後片付けが終わったのが午後6時前だった。
高野竜さんは今日は見ているだけだったが、体力を消耗したらしく、最後のほうは長椅子の上で気を失っていた。