閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

韓国新人劇作家シリーズ第一弾

モズ企画
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『秋雨』

  • 作:ジョン・ソジョン
  • 翻訳・演出:金世一

『パパのパパごっこ』

  • 作:オ・セヒョク
  • 翻訳:金世一
  • 演出:荒川貴代

『一級品人間』

  • 作:イ・ナニョン
  • 翻訳:李知映
  • 演出:鈴木アツト
  • 出演:加藤大騎、金田海鶴、日下範子、久保庭尚子、坂本容志枝、仲谷智邦、生井みづき、比佐仁、本屋徳久、吉植荘一郎、吉田俊大
  • 劇場:新宿 タイニイアリス
  • 評価:☆☆☆★
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韓国新人劇作家の短編戯曲三本を上演する企画。日韓の舞台人の交流がこうして公演としてかたちとなる意義はとても大きい。タイニイアリスならではの企画だ。しかし日本でまったく無名の韓国の新人作家の作品上演なんて、客席が埋まるのだろうか、と思っていたらちゃんと埋まっていて、私が見た日曜マチネはほぼ満員だった。
日韓関係はマスコミやネットでは対立関係ばかりが増幅されるがゆえ、こうした芸術家の草の根交流は重要なのだけれど、芸術公演である以上、作品のクオリティが低くてはどうしようもない。いやむしろ、こうした催しで低レベルの作品上演がされるとかえって交流はそらぞらしく感じられ、マイナス効果さえもたらしかねない。今日上演された三本は、日本ではまったく無名の作家の作品ばかりといえ、作品のクオリティは粒ぞろいで満足できる内容だった。
しかし各編の上演時間は短編とは言え一時間弱。タイニイアリスの座席では合計三時間ちかくの公演は、40半ばの肥満体の私にはかなりの苦行ではあった。

最初はジョン・ソジョン作の『秋雨』。翻訳と演出は金世一。とある場末のラブホテルでの連続/同時殺人事件の物語。何かの事情で離ればなれとなった父、母、娘が犯人となり、被害者となる。古典戯曲を読む会世話役のひとり、吉植さんが娼婦を買う社長と老人の役。吉植さんが演じる少女を買う社長の外道ぶり、むちゃくちゃ恐い。あんなんが出ていたらびびるなあ。作品は枠構造になっていて、外枠は殺人事件を語る男女のカップルとなっている。このカップルがベンチで語らう場面は三島の『卒塔婆小町』を連想させる。作品自体の雰囲気は、金守珍、鄭義信がコンビを組んでいた頃の新宿梁山泊の抒情的幻想を思わせた(ああ二人の『千年の孤独』、決定的に仲違いした今となっては再演不可能なんだなあ)。演出はスペクタクルの作り方が優れている。絵が洗練されていてかっこいい。脚本は悪くないけれど、物語はちょっと通俗的、定型的で深みに乏しい。

二作目はオ・セヒョクの『パパのパパごっこ」。演出は荒川貴代。古典戯曲を読む会に何回か出席してもらった久保庭尚子さんが出演する。坂本容志枝さんとの二人芝居。この二人がひとり二役で、失業したサラリーマンとその妻を演じる。二人とも男装サラリーマン姿、そしておばさんメイクともにさまになっていて可笑しい。喜劇仕立ての芝居。リストラされてそれを妻に悟られないようにいろいろ対策を練るオヤジ二人と旦那の失業を察しつつ、それを知らないふりをして受け入れる妻ふたりのやりとりが、鏡裏表のように展開する。二人の女優の早替わりひとり2役の趣向は面白い。しかし定型的な世相風刺のメッセージが見えすぎてしまうのが難点。よくできた戯曲だが、きっちり作られすぎているような印象を持つ。面白かったし、退屈しなかったのだけれど。

三作目はイ・ナニョン『一級品人間』、演出は鈴木アツト。夫の身体の各部をどんどん売りさばくことで、母親は息子に優秀な脳みそを移植していく、という話。移植された息子は賢くなるどころか、どんどんエキセントリックに、親のコントロール不能のモンスターへと変貌していく。父親は体の部分がどんどん売られ、最後は骸骨に。うーん、これも面白くて退屈しなかったのだけれど、作品で示される風刺がありきたりな感じがして物足りない。今回の三作はどれもうまく作っているけれど、ドロドロに乏しい。終演後、柳先生と雑談したときに、ユンテクさんだったら、最後の作品で母親をもっとひどく執拗に追い詰めるだろうな、というようなことを話した。

でも韓国演劇の若い世代を感じることができるいい企画だ。第二弾、第三弾、クオリティを落とさずに続けて欲しい。ただ場所は、もっとゆったりしたところがありがたいが。タイニイアリスは素晴らしい劇場ではあるけれど、あの椅子は長時間はつらい。でもこういう企画はタイニイアリスならではだけれど。