閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

shelf『nora(s)』

  • 原作:ヘンリック・イプセン
  • 構成・演出:矢野靖人
  • 衣装:竹内陽子
  • 照明:則武鶴代
  • 出演:川渕優子、春日茉衣、ミウラケン、日ヶ久保香、Cho Yu Mi
  • 劇場:小竹向原 アトリエ春風舎
  • 評価:☆☆☆

 イプセンの『人形の家』を再構成した作品。照明のあて方、幾何学模様を描くような役者の動きなど、シンプルでストイックなビジュアルのセンスにはshelf独特の世界が確立されている。川渕優子とCho yu Miのデュオでノラを分裂させて表現するというアイディアは面白いし、テキストの朗唱にも工夫がある。

 しかし私には退屈だった。shelfの舞台は催眠性が強いのだけれど、今回も眠かった。照明を抑えて、台詞を分断して、突飛な発声をさせて、象徴的な雰囲気のビジュアルを作る。鈴木忠志系の美学を共有してる仲間内では評価される作風なのかもしれないけれど、このスタイルは私の好みではない。

 何よりも受け入れがたいのは、原作のテキストの処理の仕方、テキストに対する姿勢だ。完成されたイプセンのテキストを、わざわざ解体して、再構成している意味が薄いように思った。解体して再構成されたものが、元のテキストの世界を広げたり、深めたり、あるいは元のテキストとはまた別の世界が提示されなどして、戯曲の潜在的な力が引き出されているわけではない。自分のスケール、スタイルに合わせた変形を考える前に、まず天才の書いたテキストと真摯に格闘すべきではないかと思う。 私には格闘の痕跡は感じられなかった。テキストは演出家の様式表現のための素材として、演出家に都合のよいかたちで利用されている。またこの様式で「完成」し、自閉してしまっていいのだろうかという気もする。