BAGDAD CAFE
- 上映時間:108分
- 製作国:西ドイツ
- 初公開年月:1994
- 監督:パーシー・アドロン
- 製作:パーシー・アドロン、エレオノール・アドロン
- 脚本:パーシー・アドロン、エレオノール・アドロン
- 撮影:ベルント・ハインル
- 音楽:ボブ・テルソン
- 主題歌:ジェヴェッタ・スティール『コーリング・ユー』
- 出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、ジャック・パランス、CCH・パウンダー、クリスティーネ・カウフマン、モニカ・カルフーン、ダロン・フラッグサル・Jr
- 映画館:早稲田松竹
- 評価:☆☆☆☆★
後半の展開はあまりにも順調すぎて、あのハッピーエンディングはファンタジーとしても甘すぎて私には受け入れがたい。ジャスミンが滞在ビザ切れでドイツに強制帰国、距離が離れてしまったあとは時間と共に気持ちもどんどん弱くなり、音信不通となる、というのが、これも定型的ではあるが、リアリティある表現だろう。もちろんあのハッピーなファンタジーは敢えてあそこまで踏み込んでやったに違いないだろう。そしてあのハッピーな展開に、若干の居心地の悪さを感じつつ、そして監督の狙い所の通俗性に抵抗を感じつつ、私もまた、ドイツ人女のジャスミンとともに気分を高揚させた時間があったことは認めざるを得ない。
しかし好きなのは前半に映し出されるさばくのただなかの荒廃し、倦怠に包まれたモーテル・カフェの描写だ。あのけだるさ、さばくの中でゆっくりと着実に老い、朽ち果てていく自らへの嫌悪、やりきれなさ、絶望。そしてそれを受け入れていくために、人はやけくそのようにどこか楽天的であらねばならない。あの砂漠のモーテル・カフェと同じような状況のなか、ずるずる無気力へと沈み込んでいく人間はこの世にあまたいるに違いないし、私もその一人だ。そしてこの無気力と絶望には、どこか体の芯をとろけさせてしまうような甘美さが含まれている。『バクダッド・カフェ』の前半では特に、こうした気分が見事に表現されているように思う。