- 上映時間:99分
- 製作国:カナダ/フランス
- 初公開年月:2017/02/11
- 監督: グザヴィエ・ドラン
- 製作総指揮: パトリック・ロイ
- 原作戯曲: ジャン=リュック・ラガルス 『まさに世界の終り』
- 脚本: グザヴィエ・ドラン
- 撮影: アンドレ・トュルパン
- 編集: グザヴィエ・ドラン
- 音楽: ガブリエル・ヤレド
- 出演: ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ
- 映画館:新宿武蔵野館
- 評価:☆☆☆★
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成功したゲイの劇作家ルイが、自分の死を告げるために、12年ぶりに実家に帰る。なぜ死ぬのか、なぜ12年間帰省することがなかったのかは説明されない。12年間、帰省することはなかったこのハンサムな劇作家は、家族の誕生日に数行のメッセージを添えた絵はがきを送ることで家族との接触をかろうじて保っていた。
実家にいるのは、彼の母親、兄夫婦、妹の4人。登場人物は主人公を含め家族の成員の5人だけだ。実家にいる人たちはそれぞれどこか壊れている感じがする。母親はスーパーハイテンションで舞い上がっている。妹は情緒不安定。兄はなぜかいつも不機嫌で、他の家族の言葉尻を捉えては神経を逆なでするような攻撃的な嫌みを言う。弟のルイにも憎悪をむき出しにするが、その憎悪の原因はわからない。兄の妻はルイに好意的ではあるが、なぜか彼に対してはずっとvousという丁寧語で話す。話し方は常におどおどしていて、コミュニケーション障害があるように見える。
突然12年ぶりにやってきたルイだけが、冷静で温厚でまともな人間に言える。しかし彼は自分の死を告げにやって来たというのに、それを結局、家族に伝えることができない。彼の告白を受け入れるような雰囲気がないのだ。家族間のグロテスクで異常なテンションのバリアで、彼の存在ははじき飛ばされてしまうかのようだ。彼は地獄となったこの家族には救世主となるような存在なのだが、家族はその救世主を受け入れる余裕がなくなっている。結局、彼は何をしに帰ってきたのかわからない。調和を失った殺伐とした家族の状況に何の影響ももたらさないまま、兄に追い返されてしまう。
今のフランス映画界を代表するような名優が揃って出演している。その演技のクオリティの高さは驚くべきものだ。マリオン・コティヤールが演じる人物のおどおどしたしゃべり、表情の不安定さを見て、すごいものだなと思う。他の俳優もみな素晴らしい。ヴァンサン・カッセルの切れ方とか。主人公をのぞいて皆、強烈な個性の狂った感じの人物ばかりなので、逆に演じやすいというのはあるかもしれないが。
物語としては、自分の死を家族にわざわざ告げにやってきたというゲイ劇作家、ルイのもったいぶりかた、気取り方が鼻についてイライラした。
音楽は使いたくなるような場面には、躊躇せずにふんだんに使われている。使用されているポピュラー音楽の歌詞は、その場面のパラフレーズとなっている。映像のほとんどは人物の顔のアップというのもこの映画の特徴だ。登場人物の視点と重なるショットが多い。主観的な視線だけで構成された映像とも言える。象徴的な映像・音楽・台詞を重ねることで、各人物の情念が濃厚に表現される。