閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

カロリーの消費

サンプル
http://www.samplenet.org/yotei3.htm

  • 作・演出:松井周
  • 舞台美術:杉山至+鴉屋
  • 照明:西本彩
  • 衣装:小松陽佳留
  • 舞台監督:小林智
  • 出演:渡辺香奈、山中隆次郎、辻美奈子、羽場睦子、米村亮太朗、古屋隆太、山崎ルキノ、古舘寛治、大竹直
  • 上演時間:1時間40分
  • 劇場:三鷹 三鷹市芸術文化センター星のホール
  • 評価:☆☆☆☆★
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悪意に満ちた黒いファルスの傑作。
ちょっとシュールな設定の中で、かなりエキセントリックな人物が、妙にリアルな会話を交わし、それが邪悪でグロテスクな喜劇的場面を描き出す。
老人介護施設で働く医師と看護師と看護補助士、入院中の老婆、老婆の息子とその妻、「歌をさがしている」路上パフォーマー、警官、通りがかりの童貞の青年、といった人物の様々な組み合わせの中で、異常なエピソードが淀みなく繰り広げられる。互いの人物関係は、老婆の失踪・誘拐事件を核にゆるやかに連関するのだが、各エピソードは全体として一つの大きな物語を進行させるものではない。
役者たちも芝居全体に漂う悪趣味をそれぞれの個性を生かして表現していたように思う。
富田靖子がかつて演じた「さびしんぼう」のピエロを悪意でデフォルメさせたような「歌さがしパフォーマー」の気持ち悪さは、こちらのサディスティックな気分を刺激する。妻役を演じた辻美奈子の可愛らしさもかなり異様である。彼女は確かにかなり美しいのだけれども、一般的な意味での美人女優とはいえないかもしれない。「特殊」美人女優と呼ぶべきか。
露悪的描写が続く割には、妙に乾いていて、あっさりした後味なのは、作者・演出者のあっさりした風貌のゆえか、それともその卓越したバランス感覚ゆえか。ブラックユーモアのセンスはケラリーノ・サンドロヴィッチを、露悪趣味はポツドールを連想させるところもあるけれど、松井周の表現の奥底にはこの両者よりもはるかにどろどろとしたものが横たわっている感じもして、怖さも感じる。