閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

シラノ・ド・ベルジュラック

SCOT
プログラム詳細|第17回 BeSeTo演劇祭

  • 原作:エドモン・ロスタン
  • 演出:鈴木忠志
  • ヴァイオリン演奏:漆原朝子
  • 照明:丹羽誠
  • 音響:小林淳哉
  • 衣裳:岡本孝子、満田年水
  • 出演:新堀清純、藤本康宏、内藤千恵子
  • 上演時間:80分
  • 劇場:初台 国立劇場中劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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原作は普通にやれば3時間ぐらいの上演時間は必要になる長さの戯曲なのでかなり内容を圧縮していることになる。表現にも強烈なデフォルメが加えられているが、戯曲のエッセンスをきっちりと伝える優れたテクスト・レジだと思った。鈴木忠志演出の『シラノ』は数年前に今日と同じ新国立劇場で見ている。そのときは静岡のSPACによる上演だった。最後の紙吹雪の場面の美しさがとにかく印象に残っていて再演があればぜひ見てみたいと思っていた。

西欧人が日本に抱いているエキゾチックなステレオタイプを敢えて積極的に取り込んで、歌舞伎を思わせるケレンに満ちた表現で徹底的に原作の世界が装飾される。独特なイントネーションでぎくしゃくと喋る和装の登場人物たち、丈の短いヘンテコな着物を身につけた芸者たちの奇妙な動きと群舞。エキゾチック・ジャポンのスペクタクルに濃厚にロマンチックなヴェルディの『椿姫』の音楽を重ねる。
確信犯的な悪趣味によって生みだされたキマイラのような舞台だ。しかしその滑稽でグロテスクな表現が最終的には圧倒的な幻想美を作り出してしまう。強引で個性的な演出の魔法が作り出す人工的な美は圧倒的な力で迫ってくる。『シラノ』の過剰な言葉の奔流が、鈴木版では過剰で強烈なスペクタクルに置き換わっている。しかしそのラディカルな表現上の変換にも関わらず、これは確かに『シラノ』の本質的部分を伝える作品であるように思った。