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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

『驚愕の谷』

演劇

驚愕の谷 | フェスティバル/トーキョー FESTIVAL/TOKYO

  • 作・演出: ピーター・ブルック、マリー=エレーヌ・エティエンヌ
  • 照明・技術監督: フィリップ・ヴィアラット
  • 出演: キャサリン・ハンター、マルチェロ・マーニ、ジャレッド・マクニール
  • 音楽: ラファエル・シャンブーヴェ、土取利行
  • 舞台監督・ビデオ操作: アーサー・フランク
  • 制作統括: マルコ・ランコフ
  • 制作: アニエス・クルーティ、マラ・パトリ
  • 製作: C.I.C.T./ブッフ・デュ・ノール劇場
  • 共同製作: シアター・フォー・ア・ニュー・オーディエンス(ニューヨーク)、ルクセンブルク市立劇場
  • 劇場:東京芸術劇場 プレイハウス
  • 評価:☆☆☆★

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89歳になったピーター・ブルックの新作の上演。この春に、ブルックの本拠地であるパリのブフ・デュ・ノール劇場で初演された作品。
俳優三名(女優一名、男優二名)と楽器演奏者二名の構成。舞台美術は何脚かの木の椅子とスタンド付きの照明が三台というシンプルなものだった。しかしシンプルだけれども、舞台の奥行きやホリゾント幕の色合い、照明の加減などで、センスのある空間が提示されていた。開放的な舞台空間の設計ではあるが、すかすかな感じがしない。

東京芸術劇場のプレイハウスでの公演で、今日の公演は超満員で二階、三階席も埋まっていて、立ち見客もいた。この小屋がこれだけ埋まっているのは私ははじめてだ。

驚異的な記憶力を持つ女性が主人公である。女性は見たり、聞いたりした言葉やものを、図像化し、それぞれに特有のコンテクストを作り上げることで、記憶していく。一種の共感覚の持ち主だ。共感覚については2年ほど前に、友人が共感覚の持ち主である作家・作曲家の研究をしていて、私はこの感覚の存在を知ったのだ。Wikiの説明を引用すると、「共感覚(きょうかんかく、シナスタジア、synesthesia, synæsthesia)は、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる一部の人にみられる特殊な知覚現象をいう。 例えば、共感覚を持つ人には文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする」となっている。

上演時間は75分。女性は研究所でいろいろな検査を受けた後、その異常な記憶力を生かした見世物芸人となる。劇中で手品ショーの場面が、観客参加のリアルなショーとして提示される。この部分は見ていたときはそれなりに楽しかったのだけれど、翌日思い返してみると、観客を舞台にあげて平凡な手品ショーを劇中に組み込んで観客を喜ばすという手管が嫌な感じだ。観客を喜ばせる手慣れた感じで露骨にあざとくて。あの茶番じみた手品ショーの後で、キャサリン・ハンターが本当に「記憶ショー」をやってみせたら、おおっという感じだが。嘘を見せる手品ショーが本物で、トリックのない共感覚者のパフォーマンスが嘘ごとという逆説を舞台上で堂々と提示する。白けた気分になる。

俳優三人の演技は安定感があり、素晴らしい技量の持ち主であることは一目瞭然。むちゃくちゃ上手い。
しかし話は本当につまらない。気取った哲学風コント教訓付といった趣き。この枯れかた、力の抜けた感じ、すかし方が気に入らない。こんな作品をありがたがる大人には私はなりたくない。